「リアリティの境界」リトル・マーメイド キレンジャーさんの映画レビュー(感想・評価)
リアリティの境界
恥ずかしながらアニメ版のリトルマーメイドを観たことがないので、単純に比べることはできないが、これまでのアニメ作品(「シンデレラ」や「美女と野獣」や「アラジン」など)の実写版と比べて、このお話は人間以外のキャラクターも多く、ストーリーの半分近くが海上や海中で進む分、ファンタジーの度合いが高く、リアリティの基準が難しいんだと思う。
で、私は「『リアル』のラインがすごく変な映画だなぁ」という印象を抱きながら最後まで観ることになってしまった。
ある意味『アンダー・ザ・シー』の演出は秀逸だった。
あの海の中の綺麗さと気持ち悪さをしっかり共存させて、リアルとファンタジーのバランスが絶妙な楽しいシーンに仕上がってた。
おそらく、アニメでは気にならない様なことも、実写にしてしまうと、途端に不自然に見えてしまうってコトもあるんだろう。
まずは最初の船上の火事。あんな大雨が降る中で、あっという間に激しく炎が燃え広がって船を燃やし尽くす違和感。
そこで助けたエリックを見初めて「きっと会いに行く」と岩陰から誓うアリエルの怖さ。
うん。評価が厳しくなったのは、このアリエルに関して、私はどうしても好きになれなかったってのもある。
アニメ版を観ていないので、肌の色や人種の違いなんて私には気にならないのだが、単純に「私の好みの顔ではない」のに加えて、「(この話で進めるには)若干年齢が高いのでは?」という気がする。
漁師の網にかかって引き上げられ、領主のお城に引き取られたのは良いが、速攻で城の中をうろついて、部屋を物色するわ、エリックの大事な宝物を叩き壊すわ(中から美しい鉱石が出たからなんだっつうの?)。
「無垢」「無邪気」「好奇心」で正当化するには、このアリエルは大人すぎる。
端的に言うと、人間達から見た彼女は、本来ずっと「怖い」はずなのだ。
これはおそらく実写だからこそのリアリティが悪い結果を生んだということだと思う。
あと、声を奪われたらアリエルの歌声は出させないほうがいい気がする。
あれじゃ、声を取り戻してからの歌声に全然価値を感じない。
リアリティってことで言うと、鳥のスカットルが海の小魚を丸呑みした直後に、そのまま魚のフランダーと普通に話をするんだけど、その辺りはどーなの?怖くないの?
「人間が水から顔を出す」シーンって、アニメとリアルではずいぶん演出を変えないといけない気がするけど、本作で最後に海から顔を出したトリトン王なんて、「びちょびちょに濡れたおじいちゃん」にしか見えなかった。
そもそもこのトリトン王、全然頼りににならないし。
かといってヴィランのアースラもなんだかあっけない最期。
…どんどん思い出してきた。
エリックって…根本的にバカっぽくない?
あ、エリックってあの領主の女性の実の息子ではないワケでしょ?思わせ振りなタイミングでそんなセリフもあったし。
加えて、アリエルの母親についてもなんかボヤってしてて、こっちも何かあるのかな?と思ってたら、結局何もなし。
ポリコレってコトで言うなら、冒頭でトリトン王の娘が7つの海から集まって、それぞれ人種が違うってのはまだいいんだけど、ラストでそれまで一切出てきてない、老若男女、様々な人種の人魚たちが一度に登場するの、あまりにもわざとらし過ぎて、当てつけかと思えてしまう。
ホントに数え上げたらキリがない。
そんなつもりはなかったんだけど、結果あら探しみたいになっちゃったのは、やはりそれぞれのキャラクターに魅力を全然感じることができなかったってのが大きいなあ。
残念。