「過日」バビロン U-3153さんの映画レビュー(感想・評価)
過日
ハリウッドの転換期を舞台に栄枯盛衰のようなものを描いちゃいるが…「人生」を肯定されてるような気になってきてる。
どんな「人生」をも一生懸命、がむしゃらにに直向きに突き進め、と。
この転換期が舞台なのも抜け目がなくて…冒頭の乱痴気騒ぎなんか良く出来てて、中身はキ○チガイばかりだ。そもそも特殊なヤツしか居ないのだ。いや、生き残れないといおうか…見てる分には楽しいが、個人として付き合いたくない連中ばかりが描かれる。
マーゴットロビーもブラッドピットもヤバい奴なのは間違いない。だけど、何かを持ってる。
ただ一つ、重要な何かを持ってたからソコに居続けられた。それがたまたま映画業界だった。
それ以外の世界では、生き辛すぎるのではなかろうかと思う。
最高で最強のバカ騒ぎから本編は走り出す。
一夜明けた後の生活との対比が強烈だった。
「映画の神様」なんて価値観が生まれたのは、この時代なのだろうなぁと思う。とてつもなく自由だ。意図しない偶然に「神」の存在を当てはめてしまうのも頷ける。未熟と呼ぶのも憚られるくらいの撮影環境で、とんでもない。
実際のエピソードもあるんだろうが、人が死ぬ。
撮影中に、だ。
皆、その事を歯牙にもかけない。日常茶飯事で、今回はどうやって揉み消そうかなんて具合だ。それほどまでに無秩序で、粗野な環境だ。
ただ、当時としては莫大な金が動く。
見る側の熱狂も凄まじかったのだろう。夢を売るその価値は、とてつもなく巨大なのだ。
その幻想に憧れを抱いてしまった主人公。
彼が担うの理想と現実、だろうか?
「映画」というものの成り立ちを理解した時、彼はそこに何を見つけたのだろう。
おそらくなら幻滅も大きかっただろう。
彼が頭角を表すのは旧体制を破壊する「トーキー」が生まれてからだ。
その新たな潮流で加速する者、過去にしがみつく者、振り落とされる者、様々な思惑が絡み合う時代。
スタッフの描写が最高にイカしてた。
熱狂を制約で抑え込まれ不自由に擦り潰されていく人達。監督の意気消沈ぶりったらない。感性を約束で縛られる女優。責任感で発狂する助監督。
そして、死ぬカメラマン。
ここでもまた人が死ぬ。
数多の失敗を経て、新たな産業は拡大されていく。
秩序と引き換えに失われていく発想。
引き金に向かうブラピの背中が物語るのは、予測された未来への絶望感なのだろうか?
暗闇に踊りながら溶けていくマーゴットには忘却を感じたりする。
数年を経て、当時の映画を観て涙する彼の胸中には何が蠢いていたのだろうか?
悔しさだろうか?
もう戻れない寂しさだろうか?
悔いは、ずっとあったのだろう。
情熱を昇華しきれず、リタイアした無念なのかな。
だけど、最後に微かに彼は笑う。
なんだかんだと、全ては虚空で正反対の内面であったとしても、それでもその魔力にほだされてしまうのだろう。時を経てもその本質までは変えられない。
いいラストだった。
なんか、儚いものだなと思った。
爽思うと、映画館の帰り道で、ほろ酔いのサラリーマンとか、呼び込みで生気なく佇んでる黒服のお兄ちゃんとか、自分も含めちっぽけでろくでもない人生を一生懸命生きようと頑張ってる隣人を愛おしく思えた。
バビロン
滅びゆく都市って印象が強いけど、この映画にはもってこいの題名に思えた。
栄光も挫折も「今」を生きてきた産物でしかなく、何がどうであろうとも、唯一無二の自分の人生を誰もが歩いてんだなぁ、なんて事を感じたかなぁ。
作品はとてつもないスピード感と、鋭角な緩急に満ちていて飽きなかった。