「進歩を妨げるべきではない」バビロン sumiさんの映画レビュー(感想・評価)
進歩を妨げるべきではない
前情報をあまり仕入れずに鑑賞したので
いきなり象を運び出してびっくりしました。
まぁ入れててもびっくりしたかも。
個人的にはエログロというよりは、
『汚い』という感じ。あと人がたくさん死ぬ。
マニーがパーティーでネリー、
ジャックそれぞれと出会い、
酔い潰れたジャックを送り届けたら
アシスタントとして働くことになり、
いろいろ経験を積んでいって
シドニーをメインに録るあたりまでは
わりかし観やすかった。
よくあるサクセスストーリーみたいなかんじで。
そのあとサイレントからトーキーへ、
技術が進み、客の求めるもの、時代が変わっていく。
それぞれの人生の雲行きも怪しくなっていく。
サイレントでスターに上り詰めたジャックは
トーキーに求められる『声の演技』に苦戦する。
(愛を囁くシーンで笑いが起こる)
サイレントでチャンスを掴んだネリーは
トーキーの『自分の声(ロバみたい)』そのものと
『録音(細かい立ち位置と緊張感)』という現場に阻まれる。
『自分の時代』はいつの間にか終わっていた。
時代が変化していること、自分がそれに
『ついていけていない』ことを自覚するのは
かつて時代を築いてきたジャックと、
センセーショナルにデビューしたネリーからしたら
一体どれだけの絶望なんだろうか。
『進化を妨げてはいけない』と言いつつも、
置いていかれる焦燥感、絶望感、消失感を抱えて
それを打ち明けられる友も妻も
もういなかったんだろうな。
裏方のマニーはそこそこ成功してたようにみえたけど、
シドニーに『黒塗り』を提案したり、
レディ・フェイを切ったあたりは、
良い方向にも悪い方向にも、彼の成長なのだなと。
『50年後に生まれた子どもたちが、
あなたを友人のように感じる。
自分が生まれる前に死んでいるのに。』
ジャーナリストのエリノアが言っていたこの台詞に、
映画業界(あるいは芸能界すべて)の醍醐味と
呪いが詰まっているような気がしました。
音楽と、音の緩急がすさまじくて
そこはとても良かった。おもしろい。
ただ人にはあまり勧めないであろうし
全体的に長すぎたかも。2回目は観ないです。