「メッセージ」バビロン humさんの映画レビュー(感想・評価)
メッセージ
さて、この胸騒ぎをどう表現したらいいのか…
何日も迷っていたら、噛み砕くことを急がず、うけとった感覚をそのままにしてみていいんじゃないかと、芯を震わすリズムの余韻が言ってるように感じた
眩いライトが交差するなか
トランペットが叫ぶ
ドラムが猛る
サクスフォンが唸る
男と女も、男と男も、女と女も踊り叫び 騒めき弾ける
アドレナリンの噴出は高級な酒に似た琥珀色の艶めきのように融合し、富裕の煌びやかさを惜しげもなく纏い次々に独特な空気を創り出す
五感の全てか、それ以上のなにかであらゆる快楽の限界を試され、やがて、誰もさわれぬところを易々と越えていく花めく堪能のるつぼがそこにあった
1920年代のハリウッドを忠実に再現したという追随を許さない雅やかさは、圧倒的な力と権威とプライドそのものだった
そんな〝別世界〟に映像と音楽で閉じ込められたあと、ふとおもったのが冒頭に書いた印象だ
知ってることばのいくつかをどうつなげようとも到底届きそうにない
もうこれは何かまとまり無くちぐはぐになろうとも、自分にのこった感覚に自由にしゃべってもらうしかないなと思ったのだ
それほどのインパクトを与える堂々たる魅せ方に、ため息って自然な生理現象なんだな〜とあらためて実感
は行の嵐みたいな連続が、たまにちいさな雑音になってしまったが、雪になりそうな雨の日の場内にただひとりと言うまさに贅沢なラッキーで満喫し、かなりの長尺に見入りながら変則的な呼吸の一部になっていった
そんな状態で、私の目はネリーを追い、マニーを追う
すり抜けていく猫の動きでネリーは焦らし、マニーは翻弄されながら囚われた鳥のように固まる
マニーが文字通りの〝釘付け瞬殺〟されたわけがわかるあの魅力がとどまることをしらず炸裂しまくり、マーゴットの天性がこれ以上ないはまり役なのだとしらしめる
器用なだけではできない、視線のずらしも、指先のしなりも、首筋の傾きも…
ギラギラな躍動感が、フル装備のpassionからもったいぶることを知らずに溢れだしている
只者ではない野望がのぼりつめようとしているのを見事に具現化していたとしかいえない
(もう、ここまで書いて血圧があがりそう。)
とにかく、ここまでみせてくるイマジネーションと演出、演技に脱帽し、それをこうして深い椅子に腰かけたまま味わえることに感謝もした
その黄金時代、すでにスターの座に君臨していた大御所のジャック(俳優)と、才能を見出されるチャンスを待ち運を掴んでいく若者3人=はげ落ちた寒色の壁の脇においたくたびれたベッドで寝起きしながら出演を狙うネリー(新人女優)、メキシコ生まれの青年で映画作りへの熱い夢を持つマニー(映画制作)、ちいさな舞台で音楽活動を続けている黒人青年シドニー(トランペット奏者)の4人のストーリーを軸に交え、サイレントからトーキーへと変遷する映画界の時代背景をみせながら、物語はだんだんとダークな世界を取り込みシフトチェンジしていく
夢+浪漫+野望+栄華に強烈な熱量を掛け合わせ、絢爛の世界に誘って天井近くに舞い上がらせ、暗闇+欺瞞+隠蔽に時代の推移と衰退をみせて落とし込み、どんな繁栄も逆らえない流れがあることの悲哀を炙り出していくのだ
人類は、この数年の未知のウィルスの猛威に晒されて、文化や芸術、娯楽などから否応なく距離を置かざるをえない境遇にも見舞われた
また、国同士の争いも絶えず、不安の渦に明日飲み込まれても不思議ではない今、文化や芸術の立ち位置は揺らぎやすく、ためらいに似た向かい風が吹きやすいのも事実なのかもしれない
だからこそ本作は立ち上がり、弱音を吐いている場合ではないと映画界を鼓舞し、逆境に抗いながら前を向く彼らの精神を、ラスボスのようにこだわり抜いた切り札の光で目を奪い、相反する影で心を奪いに来たのではないか
そして、世界中で待つ映画ファンと、なにより制作者側が熱意を絶やさぬように、強烈な栄華を怒涛の迫力でみせ、叱咤激励のメッセージを込めた愛の鞭として映画界にふりかざしたようにおもえてならないのだ
修正済み(5回も^^;)
感性で映画を共有したような気分になれる、詩のようなレビュー❗️ありがとうございます。
感性で共有、というのは、自分の語彙では表現できないことを言い表してくれた、そういう意味でもあります。
興奮のるつぼ、ではなく、堪能のるつぼ…思わず唸ってしまいました。
今晩は。
最近、コロナ禍の影響もあり、名のある映画監督達の、映画愛に溢れた良作が公開されていますよね。
私は、今作も、その一作だと思っています。
”そして、世界中で待つ映画ファンと、なにより制作者側が熱意を絶やさぬように、強烈な栄華を怒涛の迫力でみせ、叱咤激励のメッセージを込めた愛の鞭として映画界にふりかざしたようにおもえてならないのだ”
名文だと思います。
この言葉がこの作品の価値を象徴していると思います。
素晴らしきレビューを有難うございます。では。あ、返信は不要ですよ。(私、明日は一日出張&ズルして出来れば映画鑑賞予定なので・・。)