「映画愛が痛いほど伝わる」バビロン rakoponさんの映画レビュー(感想・評価)
映画愛が痛いほど伝わる
この映画は賛否両論というが、映画愛の大きさ、映画史の知識の有無に、感じ方が左右される気がする。私はけっこう好きだった。
本作はOPの狂乱宴とEDのマニーの空想に重なるような映画リストがハイライトだろう。
ちなみにOPは、迫力こそあるものの下品で初見は辟易した(ちなみに踊り狂うマーゴット・ロビーは最高だし、チャゼルらしい素晴らしいカメラワークもある)。だがEDで再見すると、下品なパーティも哀愁漂うノスタルジックな気持ちにさせられる。駆け抜ける185分で、映画史のターニングポイントとなる巨大な渦に観客も巻き込まれていくからだ。
無声映画からトーキーへの激変の時代、ある者はスターから過去の人に落ちぶれ、ある者は無名の下働きから重鎮にのし上がっていく。技術の進歩、時代の変化がこれまでの常識をかなぐり捨てていく。落ちぶれた者は怠慢だったわけではない。時代の変化を受け入れ追いつこうと思っても、もう抗えないのだ。人が歳を取るように。若返ることはできないように。
その時代だからこそ輝ける人がいる。ネリー・ラロイは開放的な1920年代の映画業界を体現した様な人だった。マーゴット・ロビーの華美な魅力はこういう役にハマる。そしてブラピ演じるジャック・コンラッド。「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド 」でリック・ダルトンを演じたディカプリオの様に、キャリアも終盤に差し掛かるハリウッドの顔が演じる様は侘しいが説得力がある。「スパイダーマン」では若き俳優だったトビー・マグワイアが製作総指揮に名を連ねていることも、リアル映画史の時の流れを感じ感慨深い。メキシコ系、アジア系、アフリカ系の俳優もメインキャストに据え、多様性とインクルージョンを実現した構成は、まさに今の時代の体現である。映画史の変容がテーマでありながら、観客が生きるリアルな世界も、後に振り返ればターニングポイントと言われるかもしれない変化の渦中であり、それこそが約100年前を生きる登場人物に親しみを感じる所以だ。
ちなみにデイミアン・チャゼル自身、「ラ・ラ・ランド」で最年少のアカデミー監督賞を受賞した人物で、巨大な映画史を動かす歯車の一つである。光と闇が混在する矛盾したハリウッドで、なぜ歯車の一部になることを望むのか?それはもう、この世界に恋をしてしまった者の宿命だから。
デイミアン・チャゼルの映画愛が痛いほど伝わってヒリヒリした。