劇場公開日 2023年2月10日

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「全ての映画人に愛をこめて」バビロン ジュン一さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0全ての映画人に愛をこめて

2023年2月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

興奮

『デイミアン・チャゼル』の新作は
観終わって、ああ、これは主に二つのテキストに拠っているのだろうなとの感想。

舞台となるのは
「トーキー」の嚆矢とされる〔ジャズ・シンガー(1927年)〕が公開された
前後数年間の「ハリウッド」。

その前では名を売った多くのスター達が、
後ではがらりと様相を変えてしまう。

驚嘆すべき身体性を発揮した『バスター・キートン』はどうなったか。
本作でも名前だけ触れられる『グロリア・スワンソン』が再び
陽の目を見るのは〔サンセット大通り(1950年)〕を待たねばならぬ。
『グレタ・ガルボ』だけは、変わらぬ輝きを見せていたが。

おっと、閑話休題。

1985年生まれの『チャゼル』は当然往時のことを体験するハズは無く
(そう書いている自分も当然知らぬが)伝聞に頼っているハズで、
スター達の乱痴気騒ぎや乱行を知るのに最適なのは
『ケネス・アンガー』著作の〔ハリウッド・バビロン〕。

丘の上に建つ豪邸で
夜な夜なの果てるとも知れぬ桁違いの豪奢なパーティ。
酒とバラの日々こそがスターの証し。

もう一つのテキストは作中でも度々引用される
〔雨に唄えば(1952年)〕で
これも同時代を描いた傑作。

中にはまだ慣れぬトーキー映画を撮るためのてんやわんやのシーンもあり。
発声レベルの大小や、音と動作のシンクロのズレで可笑しく描き出す。

とは言え、同じ手法では監督は善しとしなかったのだろう、
テイクを重ねるとの異なる見せ方に挑んでいる。
一種の繰り返しのギャグも、あまりに笑えぬのはどうにも辛いところ。

サイレント期の大スター『ジャック(ブラッド・ピット)』。
彼が主催するパーティに潜り込んだことがきっかけでスターへの道が開けた
『ネリー(マーゴット・ロビー)』。
『ジャック』に気に入られ、制作会社の重役に上り詰める『マニー(ディエゴ・カルバ)』。

三人の盛衰を通して、同時期の「ハリウッド」の変遷が
喧噪の中に、しかし一抹の寂寥をもって描かれる。

三時間を超える長尺になってしまったのは、
先のパーティの部分は勿論、
撮影現場についても事細かにエピソードを取り込んだことによる。

観ていて楽しいのは論を待たぬものの、
通した時に盛り込み過ぎの冗長さは感じてしまう。

が、各所には、目を瞠るパートはあり。

冒頭の糞尿譚はあまり感心せぬが、
その後の屋敷内でのパーティの場面は素晴らしく
『ラ・ラ・ランド(2016年)』でのハイウエーでのミュージカルシーン宜しく、
綿密な計算のもと、延々とした場面をノーカットで撮り切る。

そして、最後のシークエンスでも提示されるように、
おそらく彼がこれまで影響を受けて来た多くの映画作品と、
その制作に携わった人々へのリスペクトと愛惜に満ちている。

前作、前々作も同様に、
自身が生まれる前のアメリカに
並々ならぬ興味を示し作品化するスタンスには
やや偏執的な気質を感じはしつつ、
その思い入れの深さと表現の強さは並大抵でないのが美点であり才能。

今回は幾多の瑕疵が視られはしたが、
次はそれらをきちっと修正して来るだろうとの期待を込め。

ジュン一