「多様性礼賛の胡散臭さを暴く傑作」正欲 竜光さんの映画レビュー(感想・評価)
多様性礼賛の胡散臭さを暴く傑作
映画「正欲」を観ました(ネタバレ少しあり)
性欲の発音で正欲。
正しい欲って何?
という話です。
ここに出てくる標準から外れた性欲は「水フェチ」です。
見ている私は、そこでつまづきます。
噴水やら、水しぶき、壊れた蛇口、滝を見て、登場人物たちは何やら喜びを感じているらしい。
ただ、それが性的なエクスタシーであることはすぐには観客には伝わらない。
そしてそのような性癖を登場人物ははひた隠しにします。
ポイントは、彼らは生身の人間には何も感じないこと。
彼らは誰からも理解されないだろうという理由のみで、生きる意味を失いかけています。
ただ外からは、ただ水遊びの好きな大人たちにしか見えません。
まだ観客にはその苦しみは本当には伝わらない。
…
そしてもう一つの物語が絡みます。
不登校の子を抱えた夫婦。
不登校の小学生と母は学校に通わないでも生き生きと生きて行ける道を何とか探ろうと試行錯誤をします。
しかし検事である父は世間の常識を振りかざしてその試みを否定します。
父のいうことは至極真っ当なのです。
…
そして水フェチの主人公たちは、あるわかりやい性的逸脱の事件に巻き込まれて逮捕されてしまいます。
先の検事の父と、水フェチの主人公たちはここで接点ができます。
主人公たちはそこで自らの本当の性的指向を無視されるのです。
実はそこで主人公たちの覚醒と生きる意味が立ち上がります。
最後に最も真っ当であった検事の父が、最も人生が阻害された人物であることが浮かび上がるのです。
もうすごすぎ!
多様性礼賛の胡散臭さの奥をえぐり出す傑作だと思います。
原作は、朝井リョウ
台詞が素晴らしい。
必見です。
追伸
私がみた全ての映画の中で最も美しいセックスシーンがあります。
泣けますよ〜。
佳道も夏月も大也も自分たちは決して理解されないと思い込むのは、頑ななことなのでしょう。しかし八重子の大也とのやり取りは、その頑なさが、正欲の側の人たちと共通のものであることを示唆します。
あのセックスシーンはその頑なさが少しほぐれる象徴としてとても美しいと感じました。