「何が普通で、何が異常なのか」正欲 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
何が普通で、何が異常なのか
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朝井リョウの原作は未読。登場人物を一人一人章立てした群像劇が、一つの事件に収斂されていく。
様々な場面で多様性が謳われている現代社会で、一般に広く認められる多様性と、「あり得ない」と思われる多様性があるのではないか、そもそも何が普通で、何が異常なのか、といった一種の思考実験を迫られるような作品。
普通であることを当たり前に受け入れる人たちと、異常であることを自覚し、それを押し隠す人たち。夏月がふと漏らす「地球に留学してるみたい」という感覚は、社会で生きづらさを感じる人たち共通のものかもしれない。夏月と佳道の疑似セックスは、普通の人たちが行う行為が、冷静に見ると異様なものであることを感じさせる。
夏月役のガッキーが実質の主役。冒頭の水に浸されるシーンから、おっと思わせ、内面が窺い知れない無表情、検事との対決シーンでの目力など、これまでのイメージを覆す好演。佳道役の磯村勇斗は、注目作には常に出ている感じ。検事役の稲垣吾郎は、もっと冷酷でもよかった。普通と異常の繋ぎ役とも言える山田真歩と東野絢香の演技も印象深い。
ただし、映画としての完成度はどうかというと、微妙なところ。そもそもこの題材を映像作品にすることは難しかっただろう。それでも「水フェチ」なので水浴びシーンが画になるが、これが「匂いフェチ」だったらどうしていただろう。
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