「あまりにも淡々とした議論に驚く」ヒトラーのための虐殺会議 kenshuchuさんの映画レビュー(感想・評価)
あまりにも淡々とした議論に驚く
ユダヤ人虐殺を政策として決定し、虐殺の方法を議論した「ヴァンゼー会議」を描く、一風変わったナチス映画。
基本的に当時のドイツ政府の高官たちが議論する姿しか映らないので単調になるかと思っていたが、なかなか緊迫感のある映像だった。それはやはり1100万人のユダヤ人を根絶しようという大暴挙が、異論をほぼ挟まれることなくあまりにも淡々と議論され決定されていくからだ。若干反論もあった。でもそれはユダヤ人を殺すことへの反論ではなく、自分の仕事が増えないように、もしくは自分が作り上げた法律への解釈が変わることのないようにという憂慮からの反論。唯一の人道的な配慮はドイツ人兵士に向けられたもの。会議の参加者に多少の人道的な戸惑いみたいなものがあるかと思っていた私のわずかな期待をあっさりと崩すものだった。
1つの民族をここまで憎み、根絶したいと考える思考はどこから来るのだろう。個人的にはやはり経済的な格差や不平等感から始まっているのではないかと考えてしまう。それは今もヨーロッパで起こる移民への排斥運動やネオナチの台頭につながっている。80年前の出来事だが、全然終わっていない問題ってことだ。現代のことを考えさせるという意味でもとても意義がある。
また、会議の運営って視点で考えると別の感想も。議長を務めた国家保安本部は自分たちがユダヤ人虐殺を仕切るために、各省庁の合意を取り付けようとしていた。だから根回しが周到だった。ビジネス的な意味では優秀だ。でも、結論ありきの会議は参加者にとってかなりしんどい。自分が会議に参加している感覚になってしまうとなかなかの疲労感が残る映画だ。
議題が「ユダヤ人問題の最終的な解決について」でなかったら、個々人に対する根回しを含めた手際のよいその運営に、思わず、感心してしまうかもしれない。しかし、議題が議題である故に、かえってその手際のよさが不気味に感じてくる。というか、背中に戦慄が走るような映画でしたね。