「徹底的に感情を排し、言葉の持つ力や放たれる台詞の波及力に信頼を委ね...」の方へ、流れる ゆきさんの映画レビュー(感想・評価)
徹底的に感情を排し、言葉の持つ力や放たれる台詞の波及力に信頼を委ね...
徹底的に感情を排し、言葉の持つ力や放たれる台詞の波及力に信頼を委ねて作られた、男女の静かな会話劇。散々言われているように、ホンサンスや濱口竜介っぽい。会話の内容も戯曲のよう。
冒頭、唐田エリカが魅せる目の演技。この子は肝が据わっている。男を観察する目線のみで、ただならぬ雰囲気を漂わせている。
そこから男と女の奇妙な交流が始まる。言葉でも虚構と現実をないまぜにしながら、女はファムファタール的に男を翻弄させていく。知的で冷静ながら、空気を切り裂くようにバシッ、バシッと芯を捉えつつ決まっていく会話。時に互いの歪さを指摘し合うシーンも相まって、2人の間に流れる空気感には常に妙な緊張感が流れている。
心を通わせる(ように見える)中で次第に芽生えていく、名付けようのない関係。そこに男が踏み込んでから均衡が崩れる。
あー結局そこなのかと。
一見、知的に、複雑に会話しているように見えても、結局男はセックスアニマルなので、下心を会話で包んで見えないようにしているだけで、結局最初から下半身で動いていたということなのだろう。
受ける女も、共犯ではあるが、分かりながら自ら掴みに行こうとする。けれどもそれは、男の待ち人の登場で、あっさりと終わりを迎える。
その後は互いに、腹に据えた黒いモノが見え隠れしたところで話は幕を閉じる。裏切り合ったのだとしたら、これはドローだ。
★★★
これは会話劇の、ある種の到達点である。気づいたらとんでもない地平へと、流されていた。
何がホントで何がウソかは分からない。人は多面体であり、自分が見たい部分のみを見て都合よく相手に幻想を抱いては、見えなかった部分が見えた時に「裏切られた」と勝手に思い込む。実際は、見えていなかっただけなのに。
今年見てよかったと思える映画の一本。これから何が起きるのか緊張感を持って見届けるには、静寂と一定の暗闇が約束された劇場での鑑賞がベストだと感じた。
(追記)
遠藤雄也のラストのセリフは、割とああゆう男日常にいるいる(てか、いた!)と思いながら見ていた。「(待ち人いるのに君を好きになるなんて)こんなこと初めてだ」とか、既視感のあるセリフすぎて。(だいたい、こんなこと言う奴が初めてなわけない)ホラー?ノアール?というか、フツーに現実にいる。
個人的には唐田エリカがマニックピクシードリームガールになる結末じゃなくて本当に良かった。