劇場公開日 2023年9月1日

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「一部の部分が問題となってPG12になったのならもったいない」福田村事件 yukispicaさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5一部の部分が問題となってPG12になったのならもったいない

2023年9月3日
PCから投稿

今年297本目(合計947本目/今月(2023年9月度)7本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))。

 まず、当方は、大阪市というある意味、この映画の「別の主人公」となりうる方たちが多く住んでいるところから投稿している行政書士の資格持ちです。この観点を理解いただければ、と思います。

 さて、こちらの映画です。大阪市では遅れ放送だったのですが、東京等で好評で、大阪市でも連日の予約埋まりで、予約を取っての視聴となります(大阪市でも当分続きそうです。ミニシアター中心なので、行かれる方はサイトのホームページ等で予約状況確認のこと)。

 9月1日は「防災の日」とされますが、その意義が何であるのかということは「意外に」知られておらず、この時期にこの映画が公開されたことには意味があるとは言えます。一方で、確かに意義があるとはいえ、地震の規模は同じでも、当時の建築基準と現在(2023年、あるいは、東日本大震災等)とは微妙に異なる点もあり、原点として「防災の日」を今日に決めているのは理解しますが、実際のところ「大規模災害等に伴うデマ等に注意せよ」という趣旨で行っている自治体はほぼなく(訓練メッセージを流して終わり、というところも多い)、この点もなんだかなぁ…という気はします(映画側帰責事由ではないので減点なし)。

 個人的には、加害者サイド(千葉県側)、被害者サイド(香川県側)のいずれの立場にも極端に偏らず、中立的な立場で描かれている点については良かったです。この事件により、この映画が述べるような被害者が生まれたほか、他の被害者(特に言葉が通じないとされた、ろうあの方や、知的・精神障害の方など)等にも、少しだけですが触れられていた点も良かったです。

 映画の趣旨としてどうしても、その趣旨として「差別用語」が出てくることは想定できるものであり、それは映画の趣旨からして目をそらすことができないものです。したがって、一部の映画にある「一部に不穏当な部分はあるが…」といった断り書きも「ない」映画です。このため、「そのまま」放映されていますが、それは「趣旨を考えて」そうなのであって、2023年時点の人権感覚としてはやはりアウトな表現は明確に存在しますので、注意しましょう(といっても、ここに投稿される方は大丈夫だと思っておりますが)。

 本映画を見に行くということは、本事件について、加害者サイド、被害者サイドのいずれか、あるいは中立的な立場でも見に行くという「ある程度の予備知識」があることは暗黙の了解と思われ、この点の説明は少ないです。ただ、映画の趣旨からしてそれは当然のことと言えうるので、そこは問題がなかろうというところです。

 また、最初に書いた「PG12になっている」点は、行為そのものの表現が厳しいほか、映画のストーリーに関係しないサブ筋の恋愛筋(実際に寝たり何だのといった表現は出ます)が絡んだのかな、とも思え、そこが絡んでいるとちょっと残念だったかな…というところです。

 採点に関しては、上記、「大阪市という特異な外国人問題を抱える」ところにいる、一人の行政書士の資格持ちという立場からの採点になる点はご理解いただければ、と思います。

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 (減点0.3/一部のセリフが(現在の基準では)混乱を招く)

 この震災のとき、在日韓国・朝鮮人の方(表現として、この表記を取ります。以下同じ)に対して「十五円五十銭」などと言わせたというのはよく知られていますが、その理由として映画内では「在日韓国・朝鮮の方は、濁音を言えない」というように紹介されている点は、明確に事実と反するのでまずいです(ただ、史実上、当時はそれで信じられていたのはご存じの通りで、減点が難しいが、ドキュメンタリー映画である以上、説明は入れるべき)。

 実際には、韓国語(北朝鮮語、という概念も難しいですが、以下、断らない限り、この2つは常に考慮して、いちいち書かないものとします)においては、「語のはじめに濁音は来ない」というルールがあるだけで、それ以外には濁音は来ます。韓国での庶民的肉料理(野菜炒め)の「プルコギ」だってそうです。「ブルコ「キ」」にはなりません。あくまで、語の先頭に来ないというルールがあるだけです(特殊な用語等は除く)。

 (減点0.2/映画内での描写が、香川県の公式の見解と異なる部分がある)

 この行商の方が、韓国・朝鮮の方と誤認されて被害にあったのは事実ですが、これについては映画内でも言及がある通り、生き延びた方からの手記があり、そこにはちゃんと「行商の一人が、中国の方から黒色の扇子を購入して持ち歩いていたが、それが(日本の文化になく)日本人ではないと誤解された」とあります(出展:香川県立文書館)。つまり、映画のような描写とは微妙に事情が異なります(ただし、映画で述べられるように、韓国・台湾はもとより、他の地方の方言を話す方や、視覚・聴覚障害の方が被害にあった等は事実)。

 ※ この点については香川県の公式見解で、この映画の作成にあたり、この点だけを改変する根拠は見出しにくいのも謎です(ただ、この事件自体、一冊の本にすべて収まっているわけでもなく、加害者・被害者サイドの書籍や、公式見解等を全て読み込む必要があり、それをどこまで映画に求めるのか、という論点にも関係します)。

 (減点0.1/「朝鮮飴」が何を指すのか、知識がないとわからない)

 あたかも、当時の韓国・北朝鮮で流行していたもの、というように思えますが、日本の史実上、この飴は、元禄・慶長の役において朝鮮出兵の時に持ち出されたものが、その地名をもってそう呼ばれている、れっきとした「熊本県の銘菓」です。

 この点、もう少しきちんと調べると、当時、韓国・朝鮮の方が売っていた飴は何でも「朝鮮飴」と呼ばれていたという史実もわかります(一般名詞に近い)。そして、形は違っても現在でいう薬機法(旧薬事法)がうるさくなかった時代は、飴にいろいろな効能をうたって売っていた、この映画でいう「行商」と呼ばれる類型が、韓国・朝鮮籍の方にもいることもわかります。

 しかし、このことは大震災以降、「飴に何が入っているかわからない」等と忌避されたことが多発し、それは震災と関係のない大阪や富山(富山は薬の町として有名であった一方、当時は薬と飴は性質上「似た商品」ではあった)の当事者まで普及し、仕事(飴売り)がなくなると仕方なく戻る方も出てくることになりますが(大震災から5~6年後)、このことも(現地における)戸籍行政を混乱させてしまい、「誰が誰か誰もわからない」といった状況を生むことになります。

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 (減点なし/参考/その後の韓国・朝鮮の方たちと日本とのかかわり)

 いわゆる日韓併合により、日本は朝鮮半島において土地管理を厳密に行ったため、住むところがなくなり日本に来ざるをえなかかった方たち(この映画で描かれているのは、この層)、そして、「第二次世界大戦前・大戦中に徴兵された人たち」、そして戦後の朝鮮戦争の勃発前に発生した「済州島蜂起事件、麗水・順天事件ほか」等、それぞれで韓国/北朝鮮から日本にわたった方がいます。

 歴史認識をどうとるかを語る場ではありませんが、前2つは言うに及ばず、後者についても敗戦後とはいえ日本はアメリカに協力したのも事実で、日本は「何らかの意味で」この一連の動きの「加害者側」になります。一方で、日本が確かに「法的に正しい帰国事業」を行ったのも確かです(いわゆる「帰国事業」)。しかし、そこで宣伝された北朝鮮はあまりに現実とかけ離れていることがわかると、数年で取りやめになり、このあとは北朝鮮との対話も取れなくなり、現在(2023年)に至ります。そして、現在でも「在日韓国・朝鮮問題」と言われるものの日本は北朝鮮を承認していないという事情もかかえ、「北朝鮮に帰国させることは人道的に無理」だという当然の理と、一方で「北朝鮮を承認しないことは、在日韓国・朝鮮人はすべて韓国人、とはできない」というこれまた当然の理があり、迷走しているのです。

 (減点なし/参考/日本が朝鮮半島に行った「文字の弾圧」)

 この事件よりも少し前に、併合していた韓国において「普通学校用諺文綴字法」というものが定められ(大正元年)、使用頻度の低い母音・子音を削るなどの対応が行われました。これにより、日本において学習する「古典」の学習(主に高校)が、同じく隣国の韓国(北朝鮮)においてそれを著しく難しくした、というのは事実です(大学で文学部等で行かないと習わないような「廃止されたハングル」がいくつも存在します)。

 ※ 韓国にも「漢文学習」はありますが、その前提となる「古ハングル」の学習に支障をきたしてしまうのです。

 ※ (少なくとも)韓国において、いわゆる「ワードソフト」といった場合、マイクロソフトのWordでもなく、「アレアハングル」というソフトが使われている(換言すれば、マイクロソフトのワードソフトがシェアを取っていない)のは、韓国における古ハングルの表記に今でも(状況により)必要だから、といった特殊な事情によります。
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 ※ 私はこのようなタイプで投稿しますので、好き好みあるかなと思いますが、良かったかなと思った方はフォローなどいただけると幸いです。

yukispica
こころさんのコメント
2023年9月11日

yukispicaさん
多くの細やか情報を載せて下さり、有難うございました。
知らなかった事ばかりでした。

こころ