劇場公開日 2023年9月1日

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「間違える男たち」福田村事件 TWDeraさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5間違える男たち

2023年9月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

公開1週目の土曜、午前中回のテアトル新宿は案の定長蛇の列。恐らくは満席に近い入りだったのではないかと思います。ざっと周りを確認したところ年齢層は高めな感じ。ただ「若者こそこういう映画を観るべき」なんて老害発言している場合じゃありません。むしろ、私の世代の方が差別に対してまだまだ無頓着とすら言わざるを得ない時代を生きてきたわけで、本作の題材である関東大震災直後における「日本人による朝鮮人等に対する虐殺行為」について、きちんと触れてこなかったことこそ大きな問題だと自覚します。思い起こせば、自分が若かった当時、まだ部落民や外国人、障碍者(現代ではこの言葉も考え物)に対する蔑称が日常的に使われ、放送メディアなどでは「放送禁止用語」という、単に「使ってはいけない言葉」という認識しか感じられない扱いでしたし、ましてや、差別に対する啓もうは義務教育時の「道徳」や「社会」「国語」などでわずかに触れる程度。おそらく、今の若者の方がよっぽど見識があり、そして意識も高くて我々こそ教えられることが多いはずです。
森達也監督、初の劇映画作品ということですが手練れですね、狭い村とは言え震災直前から震災6日後の事件までを複数の視点で描く群像劇になっており、下手を打てば散漫になりそうなところをそれぞれの人の背景や普段の言動を観進めていくうちに、いざ事件が起こるきっかけからのそれぞれがとる言動に説得力があって厚みが出ます。元々キャスティング自体が絶妙なのですが、演出が素晴らしく違和感がありません。それぞれの立場で生き、考え、思い悩み、そして間違える男たち(情けない…)。そんな男たちに振り回されるも、生きていくためにそれぞれの選択をしていく強い女たち。そして、異常事態における集団心理で判断能力が狂った人間のすることに恐怖します。
俳優の皆さん、須らく本気の名演で素晴らしいのですが、中でも印象的な静子役の田中麗奈さん。周りから見たら訳あり気で謎めいた雰囲気なのですが、実は人当たりもいいし多分他の誰よりもまともな人。特にある決意から、それでも流されそうな自分を振り切る仕草に強い生命力を感じます。そして終盤に虐殺が起こり、事件の犠牲になった方々の行き所のない絶望シーンでドスンと落とされた気持ちを、あのエンディングシーンは意外性を感じつつも救われた気がするのは、静子の生命力の強さのおかげなのかなと感じました。

TWDera