「たとえ目が見えなくとも、たとえ耳が聞こえなくても、人の愛情は肌で感じ取ることが出来る。」桜色の風が咲く レントさんの映画レビュー(感想・評価)
たとえ目が見えなくとも、たとえ耳が聞こえなくても、人の愛情は肌で感じ取ることが出来る。
福島智さんの自伝的作品。氏が幼少期の頃から視力、聴力を失ってゆく様を見せられるので見ているほうもかなり辛い内容。
氏自身の自伝は過去にも漫画化などされたらしいが、その中では聴力まで失われてゆく際には我を忘れて取り乱したりした描写があった。しかしご本人によると逆に取り乱したり、周りに不満をぶちまけたりすることはなかったようだ。ご本人曰く、そんな次元ではないほどのどん底だったということらしい。あまりの絶望から外へではなく、内に向かって行ったのだと。
彼の友人の「思索は君のためにある」という言葉通り、その性格が彼を救ったとも言える。
彼は言う。何故に自分はこんな目に合うのか、これはこんな境遇になった自分にしか出来ないことをやれということなのではと。これは物凄いポジティブシンキングだと思う。ある意味通常では耐えられない試練を逆転の発想でモチベーションとし、難関と言われる大学受験を成功させ、ついには全盲聾者で初の大学教授にまで上り詰めてしまう。米国タイムズ誌がアジアの英雄と讃えるのも至極当然。まさにピンチをチャンスに変えるとはこのことだろう。もちろん生半可な努力ではなしえないことではあるが。
そして本人の持ち前の性格に加えて何よりも彼を最後まで支援し続けた母の愛情、家族の絆、これらのどれか一つでも欠けたなら現在の氏の存在はなかったであろう。
命はそれのみでは完結しえない。花が受粉するには風や虫の介在無くしてはなしえないように。
桜の花が咲く頃、母とともに入学式へ向かう智。彼は間違いなく桜の美しさを風で感じ、海の潮の流れを感じている。そして、母の愛情も。
けして宇宙に一人放り出されたのではない。視力聴力を失ったからこそ得ることができたものもあったのではないだろうか。
いまやALSの国会議員が活躍するほどにまで一見バリアフリー化した日本ではあるが、反面まだまだネットによる心ない誹謗中傷も後を絶たないし、国会議員でさえ先頭切ってそのようなことを行っている現実がある。目が見えない、耳が聞こえない、それよりも深刻なのは心がないという障害ではなかろうか。
智を演じた田中偉登が福島さんのもとに通い、役作りに専念しただけあって素晴らしいものであり、他の役者陣も子役を含めて素晴らしかった。少々説明台詞が多いのはノイズだったが、総じて万人に見てもらいたい作品だった。
ちなみにPG12なのは何故だろう?
おはようございます。
コメント有難うございます。
エンドロールで流れたテロップを見て”世の中には凄い人が居るもんだな”と思いました。家族から支えられた、”鋼のメンタル”の人だなとも思いました。では。