「ソウルの陥没事情(?)への皮肉を込めたコメディ&パニック映画」奈落のマイホーム ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
ソウルの陥没事情(?)への皮肉を込めたコメディ&パニック映画
東京23区並の人口密度であるソウルには実際シンクホールが多く、その半数以上は地下鉄沿線に存在していて、人災と言われているという。2010年代には直径120mのシンクホールなんてのもあったそうだ。陥没を予測できる「道路陥没管理システム」が作られるほど、いわばポピュラーな災害なのだ。
本作に出てくる、「漂流教室」冒頭を連想するような深さ500メートルの荒唐無稽なシンクホールは、そういった人災への強烈な皮肉とも受け取れる。登場人物の設定などからソウルの住宅事情も垣間見えて、親近感の湧く部分も多くなかなか興味深かった。
とはいえ、基本的に社会派作品というより、生活密着型ディザスタームービーだ。相応の気楽な楽しみ方をするのが正解だろう。
個人的に好感を持ったのは、冒頭から不穏さを煽った癖つよ隣人のマンスなど、いかにも穴に落ちた後にTPOを考えない揉め事を起こしそうなキャラがそのようなムーブをせず、イラッとくるストレスが少なかったことだ。それでいてみんな適度に人間臭いので、彼らに死んでほしくない気持ちが湧いて、つい応援したくなった。
陥没する前後を中心に、実際の地震や台風災害を連想させるシーンがあり、妙に現実と結びついた恐怖感を覚えた。韓国映画の雨は、湿気を肌で感じる。その湿気と一緒に不安も伝わってくるような気がした。穴に沈む前のキャラ紹介パートはちょっとかったるい感じもあるが、全体的には尻上がりにテンポがよくなる。
登場人物が全員助かる展開は、普段はご都合主義だなーと思うことが多いのだが、本作の少年とおばあさんはご都合でいいので助かってほしかった。せっかくコメディタッチで荒唐無稽なんだから、悲しくなるリアリティはいらない。
パニックの現場で悪意に基づいて足を引っ張るストレスフルなキャラがいないので、「こいついなくなればいいのに」というネガティブな感情が湧かず、最後はみんなに笑顔が戻って(ベタだけど本作はそれでいい)、スッキリとした後味。安心感があって嫌いじゃない。