「小四郎の成長記としても良く出来た構成で、実直で愛すべき役柄は神木にぴったりです。」大名倒産 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
小四郎の成長記としても良く出来た構成で、実直で愛すべき役柄は神木にぴったりです。
原作は浅田次郎の同名時代小説。借金を抱えた藩を救済できるかどうかというテーマは、現代の日本が抱える課題にも通じます。
江戸末期。越後・丹生山藩の鮭売り・小四郎(神木隆之介)はある日突然、父から衝撃の事実を告げられます。なんと自分は、徳川家康の血を引く、大名の跡継ぎだと!
突然、藩主になってしまうという華麗な転身を遂げたと思いきや、実は石高3万石と幕府から目されていた越後丹生山藩ではあったものの、実は借金だらけだったのです。その金額は実に25万両(現在の金額で約100億円)という途方もないものでした。よほどの奇跡でも起こらない限り、越後丹生山藩が多額の借金により押し潰されて陥落してしまうのはもはや時間の問題、という状況にあったのです。
先代藩主の一狐斎(佐藤浩市)は小四郎に「大名倒産」、つまり計画倒産を命じます。全ての責任を小四郎になすりつけ、切腹させようという何とも理不尽な理由で家督を譲ったのでした。残された道は、100億返済か切腹のみ!
窮地に立たされた小四郎は、幼なじみのさよ(杉咲花)や兄たち(松山ケンイチ、桜田通)、家臣(浅野忠信)らとともに、節約プロジェクトを開始します。しかし江戸幕府に倒産を疑われ大ピンチ!
金がないのに次兄の結婚や参勤交代と、次から次へと難題が降りかかります。小四郎は、越後丹生山藩を潰すまい、そして領地の民を苦しませることはさせまいと奮闘するのでした。
現代のリサイクルやシェアハウスに置き換えられる節約術の描写が分かりやすく、笑いを誘う。小四郎の成長記としても良く出来た構成で、実直で愛すべき役柄は神木にぴったりです。優しくて、でも、芯が強くて。そんな小四郎の魅力を、神木は表情の豊かさでみせつつ、安定感抜群のコミカルな演技で笑いの渦に巻き込こんでくれました。
本作は一見すると馬鹿馬鹿しいドタバタ喜劇に見えます。しかし前田監督が、自ら原作を読んで映画化を企画したのは、「これはリーダー論だなと思った」から。意外と真面目な動機だったのです。そして知恵と工夫で藩財政の立て直しに取り組む小四郎が、「私心を捨てて、民のことを考える理想のリーダーで、痛快で格好いいと思った」というのです。「社会のひずみとかゆがみを変えていかないといけないよねと、コメディータッチの映画を通してお客さんに伝えたい」と話しています。
前田監督は、原作の時代劇という枠組みにも引かれたそうです。「システム的にいろいろな問題が起きている状況は、現代の状況にも似ているが、それを現代劇で見せると、とても真面目で堅苦しいものになってしまう。原作がすごいのは、ユーモアのある時代劇として描き、エンターティンメントになっているところだった」といいます。
前田監督といえば、最近作で高齢者介護について重厚な問題提起を行った「ロストケア」でい、高く評価されました。「今は、いろいろなことを人任せにできない時代。『一歩前に踏み出しなさい』とまでは言えないけど、映画を見てそうだよな、と思ってくれるといい。映画にはそういう力があると思う」と前田監督は語ります。わたしもそんな映画の力を信じたいと願っています。