「違う者どうしが、同じ時間と場を共有する豊かさ」エンパイア・オブ・ライト 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
違う者どうしが、同じ時間と場を共有する豊かさ
これは不況期の田舎町でさびれつつある映画館を舞台にした映画で、受付係の中年白人女性ヒラリー(オリヴィア・コールマン)と新入りの黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)が心を寄せていく過程が主要な筋の一つになっている。人種が異なり歳も離れた男女が、同じ職場で共に過ごすうちに互いを理解しそれぞれが相手の大切な存在になっていくという、多様性尊重の現代にふさわしい内容だが、思えば映画館で映画を観る行為もまた、他人同士が劇場という空間を共有し、同じ時間を過ごすという意味で通じている。
サム・メンデス監督による本作や、スティーヴン・スピルバーグ監督の「フェイブルマンズ」など、映画館や映画作りについての映画が増えているのは、配信の興隆に押され、さらにコロナ禍で拍車がかかった劇場興行の衰退傾向に巨匠たちが危機感を強めていることと無関係ではないはず。配信視聴では代替できない、他人同士の客たちが同じ映画を一緒に観て過ごすという体験の豊かさを守り、未来へ継承していきたいとの願いを込めているのだろう。
オスカー女優、オリヴィア・コールマンの熱演は文句なしに素晴らしいが、やはりオスカー俳優のコリン・ファースが脇に徹してゲスな支配人を嫌ったらしく演じているのもなかなかに贅沢だ。
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