エンパイア・オブ・ライトのレビュー・感想・評価
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違う者どうしが、同じ時間と場を共有する豊かさ
これは不況期の田舎町でさびれつつある映画館を舞台にした映画で、受付係の中年白人女性ヒラリー(オリヴィア・コールマン)と新入りの黒人青年スティーヴン(マイケル・ウォード)が心を寄せていく過程が主要な筋の一つになっている。人種が異なり歳も離れた男女が、同じ職場で共に過ごすうちに互いを理解しそれぞれが相手の大切な存在になっていくという、多様性尊重の現代にふさわしい内容だが、思えば映画館で映画を観る行為もまた、他人同士が劇場という空間を共有し、同じ時間を過ごすという意味で通じている。
サム・メンデス監督による本作や、スティーヴン・スピルバーグ監督の「フェイブルマンズ」など、映画館や映画作りについての映画が増えているのは、配信の興隆に押され、さらにコロナ禍で拍車がかかった劇場興行の衰退傾向に巨匠たちが危機感を強めていることと無関係ではないはず。配信視聴では代替できない、他人同士の客たちが同じ映画を一緒に観て過ごすという体験の豊かさを守り、未来へ継承していきたいとの願いを込めているのだろう。
オスカー女優、オリヴィア・コールマンの熱演は文句なしに素晴らしいが、やはりオスカー俳優のコリン・ファースが脇に徹してゲスな支配人を嫌ったらしく演じているのもなかなかに贅沢だ。
今こそ映画に包み込まれたい人へ
1980年代のイギリス南東部の街、マーケイドには、海風と一緒に時代を過ごしてきたようなアールデコ風の映画館、エンパイア劇場があって、そこでは『炎のランナー』('81)のプレミアが開催されている。アカデミー作品賞とヴァンゲリスのシンセサイザーをフィーチャーした音楽に同作曲賞が贈られた、当時の英国ブームを牽引した話題作だ。そんな時代をリアルに知っている映画ファンは、監督のサム・メンデスが自身の映画体験を基に綴ったという本作の世界観に、思わず惹き込まれるに違いない。
物語の主人公はエンパイア劇場で働くベテランの受付係、ヒラリーと、新米の従業員、スティーヴンだ。どちらも心に傷を持つ2人が、あっという間に心を通わせ、関係を深めていく過程と、さらに、サッチャー政権下の人種差別という社会問題が描かれる。常に精神が不安定なヒラリーのキャラクターはメンデスの実母がモデルだそうだ。
そんな風に、扉を挟んだ映画館の内と外では生々しい人間の営みが繰り広げられている。そして、人々を見守り、抱きしめ、やがて、挫けた心に希望の光をそっと灯すのが、映画と映画館だ、というのがメンデスのメッセージだ。これは創作活動が禁じられたパンデミックの最中だからこそ生まれた映画へのアンセム。ところどころ説明不足が目立つものの、今こそ映画に思いっきり包み込まれたいという観客の願いに間違いなく応えてくれるはずだ。
映画や思いが人の心をやさしく照らす。メンデス流の映画館賛歌であり、人間賛歌。
先日、英国マーゲイトにバンクシーの新たなアートが出現して話題となったが、本作の舞台”エンパイア劇場”が佇むのはそこから歩いてすぐのところだ。冒頭、ピアノの調べに乗せて場内の灯りがポツリと点灯する。この優しく柔らかなノスタルジーに早くも胸を掴まれ、涙を堪えきれなくなる自分がいる。なるほど、これはメンデス流の映画館賛歌であり、80年代への追想なのだろう。『炎のランナー』プレミアに向けて活気づく中、ここで働くヒラリーは傷だらけの心を抱えて崩れ落ちそうになり、不意に出会った若者が彼女を明るい方へ導くかと思えば、一方で不況期のヘイトが彼に襲い掛かる。母子ほど歳の離れた二人の支え合う姿がなんと味わい深いことか。テニスンの中でも特に人気の高い大晦日の定番詩"Ring Out, Wild Bells"やオーデンの"Death's Echo"、ラーキンの"The Trees"が物語に高揚と彩りを添えている。
いつかそこに辿り着けることを信じて
どこかシニカルで、綺麗ごとだけでなく出来れば見たくない暗部も描きつつ、最後はホロッと感動させるそんな映画でした。
名優オリビア・コールマンのジェットコースター演技、名匠ロジャー・ディーキンスの息を呑む映像。特に後者は映画タイトルそのもので、作品を掛け算で格調高きレベルまで持っていってると感じました。
決して良いことばかりではない、主要人物たちはどこかに問題やコンプレックスを抱えている、そこに社会情勢もある、生きてる以上いつだってどこにだって誰にだって不満や不安はある。後半近くまで少しツラい描写が続くものの、ラストの映画館のシーンでちょっとだけ、でも確かに救われる。きっと誰もが皆、こんなシーンに象徴される救いや癒しや楽しみを追い求めながら生きているのかななんて、センチメンタルな感傷に浸っちゃいました。
王道からは少し外れるかも知れないけど、素敵なヒューマンドラマでした。
最後に、トビー・ジョーンズが味わい深かったです。息子とのエピソードはこの作品の隠れたハイライトではないでしょうか。
折れた鳩の翼
舞台は不況に喘ぐ1980年代初頭、イギリス南部のリゾート地にある老舗の映画館「エンパイア劇場」。
そこで統括マネージャーとして働くヒラリーは、どうやら定期的に医者と面談し、薬を服用しているところから精神的に不安があるらしい。
従業員らは彼女に優しく接するが、支配人は自分の欲求を満たすためだけに彼女に性行為を迫る。
ヒラリーは生真面目な性格故に劇場で働きながらも映画を観たことがない。
ある日、スティーヴンという黒人の青年が彼女の指導の下で働くことになる。
音楽好きで従業員ともすぐ打ち解けるスティーヴンだが、ヒラリーは彼にどこか軽薄な印象を持つ。
が、彼は翼の折れた鳩を手厚く保護するような優しい青年でもあった。
次第に彼女は大きく年の離れた彼に好意を寄せるようになり、彼もまた彼女の想いに呼応するようになる。
しかし二人の幸せな関係は長続きはしなかった。
時代背景には深刻な経済的不況があり、街では黒人に対するヘイト活動が盛んに行われていた。
ある日ヒラリーは町中でスティーヴンに声をかけようとするが、彼の周りに数人の白人たちが群がり、罵声を浴びせる姿を見た途端に動けなくなってしまう。
社会的にも年の離れた白人と黒人のカップルは受け入れられないような空気感があったようだ。
誰も見ていないからと恥ずかしがるヒラリーをよそに、ビーチで素っ裸で走り回るスティーヴンの姿が印象的だった。
幸せそうな二人だったが、突如ヒラリーはヒステリーを起こし、二人で作った砂の城を破壊してしまう。
「男はいつも命令してばかりだ」と喚きながら。
どうやら彼女の心の病は男に原因があるらしく、スティーヴンは差別運動を恐れ彼女との距離を取ろうとするのだが、それを彼女は拒絶されたと捕らえてしまう。
そして彼女の鬱状態は悪化してしまい、彼女は病院に入れられてしまう。
スティーヴンはルビーというかつての恋人との仲を楽しみながらも、常にヒラリーのことを気にかけてはいた。
そして時が経ち、回復したヒラリーは再び劇場で働くことになる。
しかしヘイト活動が過激化し、スティーヴンは彼女の見ている目の前でリンチされてしまう。
ただただ彼女はその様子を眺めていることしか出来ない。
ヒラリーはスティーヴンの見舞いに行くが、看護師として働く彼女の母親と対面してから会いに行くことを躊躇ってしまう。
そんな彼女の気持ちを後押ししたのは、寡黙だが心の優しい映写技師のノーマンだった。
彼には長年会うことの出来ていない息子がいるらしい。
彼は「逃げずに会いに行くべきだ」と彼女を励ます。
そしてヒラリーはスティーヴンの母親の口から、「息子はあなたが好きよ」と告げられる。
スティーヴンは順調に回復するが、二人が一緒に過ごせる時間は短かった。
彼は大学に進学するために彼女に別れを告げる。
せっかく掴みかけた幸せは、またしてもヒラリーの手の間をすり抜けてしまう。
この世には試練ばかりが続く人生がある。
きっとヒラリーは今までも同じように悲しい出会いと別れを繰り返して来たのだろう。
彼女はスティーヴンの門出を祝いながらも、自分の寂しさを打ち明ける。
彼女はもう自分の気持ちに蓋をしない。
彼女は周りの目も気にせずに、スティーヴンをしっかりと抱きしめて自分の想いを伝える。
これは彼女にとっても新しい出発なのだ。
たとえどれだけ試練が多くても、いつかは光が照らされる日は来る。
それを信じて生きていくしかないのだ。
彼女はノーマンに初めて映画を観たいと告げる。
決して明るい結末ではないが、希望は確かにある。
映像が美しい
80年代初頭のイギリスの社会情勢を背景に、中年女性と黒人青年の恋愛ドラマ。
印影が美しい映像に抑制の効いた劇伴、俳優陣の演技が印象的。
ただ親子ほども年齢が離れたふたりが惹かれ合った過程がちとおざなりに感じられたのが惜しい。
映写技師のおっさんがいい味出してた。
エンパイア劇場から
本作について、「最も個人的な思いが込められた作品」と語るサム・メンデス。
何でも主人公のモデルが母親。精神不安定の母親と多感だった子供時代の自身の心の拠り所だったのが、映画。
でなくとも、ノスタルジーを掻き立てられる。
1980年代の“あの頃”。
海辺の老舗映画館。
古今東西、映画館を舞台にした作品は好編が多い。
勿論本作も映画愛やオマージュ溢れる。『炎のランナー』のプレミア上映会なんて、メンデス自身の思い出かもしれない。
しかしメンデスはそこに、人間ドラマを紡ぎ出す。
古典的なラブストーリー。いやズバリ、メロドラマ的。
1980年代初頭のイギリス。
海辺の町で長年人々に愛される映画館“エンパイア劇場”。
ヒラリーはそこの統括マネージャー。
真面目な仕事ぶりで支配人からも特別目を掛けられている。性的強要を。
職場と家をただ往復する毎日。職場の人間関係は悪くないようだが、友達はおらず。孤独な中年女性。
セラピーにも通っている。何か、訳ありの過去が…。
新人の青年スティーブンが入ってくる。
人懐こい性格ですぐ職場や同僚と打ち解ける。
夢は建築家だったが、事情で諦め、エンパイア劇場で働く事に。
当初は職場の同僚。先輩と後輩。が、接していく内に…。
訳ありの過去を持つ身と、夢諦めた身。
次第に惹かれ合っていく…。
ヒラリーとスティーブン。
片や中年に入り、片や若々しい。歳の差の二人。
さらに、白人と黒人。
支え合い、惹かれ合いながらも、各々抱える複雑な事情や壁。
スティーブンとの恋で自身がつき、大胆になるヒラリー。
プレミア上映会時、支配人夫人に関係を暴露。
塞ぎ込んでいた感情を発散したかに思えたが、寧ろ精神異常と責められる。
事実、そうなのだ。精神面に問題あり。その原因は幼き頃の家族間…。
それをスティーブンに打ち明けるシーン。オリヴィア・コールマンの圧巻の演技。
少し恥じらいもあるヒラリーに対し、スティーブンは一途。わかいながら男らしさを感じる。
が、彼を襲う社会の不条理。人種差別。
イギリスでも人種差別があったのかと意外だが、サッチャー政権下不況の波が押し寄せ、職が奪われるという不安が黒人への人種差別に。
劇中でも町を歩いているだけでいちゃもん付けられ、マナー違反の客も明らかに。遂には暴行も…。
夢を諦めた理由もこれが関わる。
時に憤りを募らせながらも、明るさを失わない。マイケル・ウォードのナチュラルな好演。
ヒラリーは自分の年齢がスティーブンの母親と近い事を知り、その母親との対話もあって、距離を置く。仕事からも遠退く。
スティーブンはかつての恋人と再会。
ある時スティーブンはヒラリーを見かけ、声を掛ける。皆、心配している。気に掛けてくれる。
ヒラリーは仕事に復帰。心情にも変化が。
映画館に勤めながら、ほとんど映画を見ないヒラリー。こっそり盗み見さえも。
映写を手伝うスティーブンはしょっちゅう盗み見。いや、ダダ見。
映画が見たい、とヒラリー。
スクリーンに映し出される光が、ヒラリーの心をも照らし出す。
光はスティーブンにも。諦めていた夢の道が再び開けた。
その道へ。つまり、映画館を辞める。
が、迷いはない。ヒラリーも応援。
最後の抱擁。
まるで映画のように、二人のラストもドラマチック。
本作に於けるメンデスのメロウな作風は好き嫌い分かれそうだが、しみじみとドラマに浸れるさすがの演出力。
ロジャー・ディーキンスによる映像美は出色。開幕、映画館に灯る光。しっとりとした映像。クラシカルでノスタルジックな色合い。“エンパイア・オブ・ライト”のタイトルを地で行く。
トレント・レズナー&アッティカス・ロスの音楽も秀逸。
そして何より、エンパイア劇場そのものが美しい。
映画に光を。喜びを。
人生に光を。喜びを。
エンパイア劇場から。
ある少年を探して
映画を観終わってすぐの、正直な気持ちは「困惑」である。わかり易く言うと「思ってたのと全然違った」。思い返してみれば、劇場で予告を初めて見たときも「思ってたのと全然違うなぁ」だった。
「思ってたのと違う」を同じ映画で2回も繰り出してくるあたり、一筋縄ではいかない。
速報段階では、「サム・メンデスの新作」とシーンの絵面しかわからず、サスペンスかな?くらいに思っていた。
予告を観たら、なんかヒューマンドラマっぽいぞ?となって、その段階でも海辺の小さな映画館で、経営を立て直したり、新人スタッフが成長していったりが描かれるものとばかり思ってた。
で、蓋を開けてみると、どちらかと言えばラブロマンスなのである!もうね、困惑するのは仕方ないよね。
困惑したまま、思うままに書くので、いつもよりまとまりがなくなるな、と思うがご容赦願いたい。
みんなのリゾート地は私の現実
リゾート地、それは日常を忘れて楽しむ場所。仕事や家事や現実のアレコレを吹っ飛ばし、一瞬訪れる「誰でもないわたし」を満喫し、思いっきり羽根を伸ばし、楽しいことだけに浸る楽園。
イギリス南部の街マーゲイトは、日本で言うと九十九里浜とか湘南辺りだろうか。都心からでも気軽に行けちゃうビーチ。
海に来たのに映画館には行かないだろうな、と思う一方で、海に来たけどイイ感じに重厚で美しい劇場が「ブルース・ブラザーズ」なんかやってたら、休憩がてら観ちゃうかもしれない。
そんな中にあって、劇場で働く人々にとってはこの地こそ現実。はしゃいだポップコーンの後片付けや、海とは逆サイドのぽっかり空いた屋外階段、今は鳩の楽園と化したピアノのあるレストランなど、「ハレ」があるからこそ「寂び」が美しい。
美しい寂びもあり、現実もそんなに捨てたもんじゃないけど、イキった若者に絡まれたり、イキったおっさんに絡まれたり、やっぱり現実とは世知辛い部分も多分に持っている。美しいものに囲まれているからこそ、辛い部分が強烈に襲ってくる。
シーン毎の光と影のバランス感覚
明るさと暗さが同居する劇場を象徴に頂き、人生の光と闇を公平に描いている今作は、その切り取り方に職人芸を感じる。
太陽の光がたっぷり降り注ぐビーチサイド、漆黒の夜空に打ち上げては散っていく花火の光、映写機の中で力強く光るアーク放電。
登場人物たちが明かりを点けたり、消したり、外の光を閉ざしたりするシーンもかなり多く、映画全体のバランスと心の動きを演出する上で、光はかなり重要な役目を担っている。
欠けているピース
1980年代初頭のイギリス、当時の政治の流れ、今日まで残る人種差別、雇用問題、精神的な疾患と治療の難しさ、社会とは逆ベクトルに進歩していく新しい音楽。
サム・メンデス監督のインタビューによれば、彼は当時16歳、彼の人生に大きな影響を与えた年代だという。また、オリヴィア・コールマン演じるヒラリーは監督の母がモデルであるとも。
そこから察するに、「自分の人生の苦味」である母との思い出を形にする中で、監督は母を幸せにしてあげたかったのではないだろうか。
もう一つの「苦い思い出」である、差別や分断の流れを、今と対比しながら連続させることで、現実の持つ世知辛さを何とかしたかったんじゃないだろうか。
そのどちらにも欠けているもの、それは少年サム・メンデスである。彼はこの映画に出てこない。多分ビーチサイドの歩道を歩いたり、街のどこかで買い物をしたり、あるいはいつか劇場で映画を観ていたりするかもしれないが、その少年は一度たりともスクリーンに登場することはないのだ。
もし、ヒラリーに息子がいたら、この映画はどうなっていただろうか?息子の眼差しは我々に何を訴えただろうか?
母の恋を応援したり、少し年上の青年と友情を育んだり、映画を観て感動したり、そんな少年がいても良かったんじゃないかなと思う。
光の魔法
Film.
It's just static frames with darkness between.
But there's a little flaw in your optic nerve.
So if I run the film at 24 frames per second,
it creates the illusion of motion.
An illusion of life.
So you don't see the darkness.
Out there, they just see a beam of light.
And nothing happens without light.
なんて詩的な台詞なのだろう。テニスン、オーデン、ラーキンの詩を劇中印象的に散りばめながら、メンデス&ディーキンスコンビが映画文化そのものへのオマージュを(過去作の切り出しやパスティーシュといった安易な方法ではなく)英国エスタブリッシュらしくあくまでも詩的に語った1本なのである。
英国南部の古びた映画館エンパイア劇場の従業員ヒラリー(オリヴィア・コールマン)は、精神疾患の持病があったサン・メンデスの実母がモデルになっているという。コロナ禍でロックダウン状態だった時に、二度と映画館に映画を見に行くことができなくなるのではないか。そんな不安に駆られながら思いついたシナリオらしい。劇場で放映される実際の映画は、ティーンだった頃メンデスが実際に映画館に足を運んで見に行った思い入れのある作品だという。
当時、英国ではサッチャリズムが吹き荒れ、仕事にあぶれた白人の若者たちがフーリガンのごとく暴れまわり「俺たちの職を奪うな!」と黒人への差別を強めていた時代。劇場支配人(コリン・ファース)から性的搾取を受けていたヒラリーは、劇場に雇われた黒人アルバイトスティーブンと恋仲(オバサンのくせにこのヒラリーかなりモテモテ♥️)になるが、持病が再発、精神のバランスを崩してしまう。
心にそれぞれの“闇”を抱えた2人が、今では廃墟となっている劇場の階上テラスで愛を確め合うシーンなどでは、名カメラマンロジャー・ディーキンスならではの映像美を十分に堪能できるだろう。やがてスティーブンが白人暴動の犠牲となると、自然消滅的に2人の愛も闇の中.....しかし、本作品の“ファイ効果”が2人の関係に再び“光”をもたらすのである。劇場に勤めていながら、職務への忠誠心から映画を観たことがなかったヒラリー。そんなヒラリーが映写技師のセレクトで観た最初の作品は、ピーター・セラーズが知的障害の庭師を演じた『チャンス』だったのである。
実はこの映写技師ノーマン(トビー・ジョーンズ)には8才の時以来会っていない子供がいて、ヒラリーが子供が親父に会いたがらない理由をきいても、このノーマン「思い出せない」と答えるのだ。そんなに辛い過去(闇)をも“光”で埋め尽くし忘れさせてしまうほどの力が映画にあるのなら、是非自分も試してみたいとヒラリーは思い立つのである。自らの暗い思い出を消し去るために...
「人生とは、心のありようだ」(映画『チャンス』より引用)
期待していた内容とは違いました
広告のポスターを見た感じから、黒人青年とある程度歳をとられた女性との絆を描いた、心が温まるようなストーリーを想像していたのですが全く違いました。
まず、ラブストーリーではあるものの、背景に人種差別や女性差別がテーマとしてあり、さらには主人公が精神疾患者であるため、かなり内容が重たいです。また、二人の関係についてもプラトニックなものではなく、肉体関係を持つのでちょっと違和感があり、ひいてしまいました。
という訳で、作品の質という意味では良いとは思いますが、内容が私の期待していたものではなかったのでちょっと残念でした。ただ、主演の女優さんの演技は凄かったと思います。
それから、内容に反して映像と音楽についてはとても素敵でした。映画館の雰囲気や作中で上映されている作品も良かったです。「チャンス」がまた観たくなりました。
海辺の街
撮影がよかった。コールマンの演技もよかった。雰囲気もよかったが本題が転がって違うところへ落ちた。立派なプロダクトだがつまづいていると思った。
Rotten Tomatoesを見たら多数の批評家がディーキンスの撮影をほめていた。コールマンとMicheal Wardの演技も賞賛されていた。が、脚本は扱き下ろされ、トマトメーターは45%だった。
半ばまではとてもよかった。
80年代初頭、海辺の街。レトロな映画館。統失持ちの盛りを過ぎた孤独な女。
上質な雰囲気を撮影が支えていて、あとになってディーキンスだと知ってみると、感慨深いものがあった。
撮影(CinematographyもしくはDirector of Photography)が主張する役向きだとは思わないし、ディーキンスが撮っていることを察知できるほど映画通でもない。
だが予備知識なくEmpire of Lightを見て「撮影がいい」と思った点においてやはりディーキンスはすごいと思った。
Rotten Tomatoesでは筋書きやスクリプトが批判されているものの、どこかなぜいけないかの指定には苦慮が見られた。
たしかにどこがなぜいけないか説明しにくい。細かい違和感は指摘できても、決定的なconsポイントにはならない。
なんかちがうなと感じるところが多かったが「なんかちがうなと感じたから」だとレビューにならない。
このもどかしさの言い訳としてコールマンが上手だから──はあると思った。上手すぎるので筋書きや台詞の瑕疵がスポイルされてしまうのだ。
ヒラリー(コールマン)は辛い過去から統合失調症をわずらっており薬を常飲することで穏やかな気質を保っている。
メンタルに疾患をもちながら職に就けた義理のため館長の性的な誘いを拒みきれず関係を続けている。
新人の好青年スティーヴン(Micheal Ward)と会い恋愛感情がめばえるが、気分が高揚し薬を飲まなくなることで破綻があらわれる。・・・。
あえて言うならリアリティと感傷のバランスが妙だった。羽根を怪我した鳩をなおしたり、セラーズのチャンスを見て泣くのは感傷的だった。そこだけじゃなく、エモーショナルにしたい空気とリアリティでいきたい気勢が不整合していた。引用も唐突で、統失の彼女がチャンスを見て泣くのは出来過ぎだった。
だが哀感漂う白人女と黒人青年の恋慕はさわやかだった。
スティーヴンが遭遇する外世界のまがまがしさ(人種差別や暴動)を普遍的なものととらえることもできる。
わたしたちも幸福な気持ちのとき、まがまがしいものに遭遇することがある。
たとえば恋人あるいは家族と街や商業施設にいるとき、輩っぽいのがたむろして騒いでいるところに遭遇するみたいな──そういう状況におちいることがある。
そのような外的なまがまがしさと、ヒラリーのメンタルに起こる内側のまがまがしさ、それらが人と人の間に試練を及ぼし、乗り越える様子が描かれている。
世界はまがまがしいものだらけだからね。
言いたいことはすごくわかる映画だった。
エンパイア劇場に次々と照明が灯る
懐かしさ暖かさを感じる映画でした。
古き良き時代の豪華な映画館。
ノスタルジーの波が、うねりのように押し寄せてきて心地よい。
1980年代のイギリス映画館「エンパイア」を舞に移民への差別や、職場の上司のハラスメントを穏やかに語るときも、
どこか間接照明のように暖かい光りに満ちています。
そして《生きる事の痛みと不安》を表現するオリヴィア・コールマンのヒロイン像にも深く共鳴しました。
1980年。
イギリスの静かな港町マーゲイトの映画館「エンパイア」。
マネージャーのヒラリー(オリヴィア・コールマン)は孤独な中年女性です。
若くも美しくもありません。
スタイルもぽっちゃり体型です。
自律神経失調を抱えて心療内科に通院しているヒラリー。
でも事情を知る同僚は皆一様にとても優しい。
映画館「エンパイア」が影の主役です。
映写技師のノーマンが映写室も隅々まで案内してくれます。
「エンパイア」劇場はゴージャスで格調高く美しい。
スクリーンが4室もあった隆盛期に較べれば、映画の人気もやや斜陽になり
今は一階の2つのスクリーンしか営業していません。
3階も以前はピアノの弾き語りやバンド演奏のあるクラブだったようです。
(どんなにか着飾った紳士・淑女で賑わっていたのでしょうね。)
今では空室部分には鳩が住み着いています。
ヒラリーの職場に新しい従業員が入って来ます。
黒人の若者スティーヴン(マイケル・ウォード)。
大学へ行きたいが上手くいかず夢を諦めている。
ダークスーツの三つ揃いにソフト帽を被ったお洒落さん。
顔立ちの整ったハンサムボーイさん。
20歳以上の歳の差のあるヒラリーとスティーヴンは、
大晦日の夜に「エンパイア」の屋上でワインで乾杯して花火を見た事で
急接近します。
カウントダウンの後にキスを交わす2人。
そして2人は3階ののクラブ跡で愛を交わす恋人関係になるのです。
一方でヒラリーは劇場の支配人エリス(コリン・ファース)から
酷い扱いを受けています。
支配人室に呼ばれて性接待を強要されているのです。
映画館「エンパイア」
ガラス張りのチケットの売り場があり、
1階の中央にはポップコーンや甘いお菓子の売られているコーナー。
ポップコーンは量り売り。
一階のホールに照明が灯るシーンは夢のようです。
1980年初頭のイギリスはサッチャー政権で不景気の真っ只中。
酷い首切りとストライキ。
それに移民たちへの差別とデモ行進。
黒人と白人の対立が酷く、移民への風当たりが強い。
デモや衝突がしょっ中起きている。
黒人青年と白人中年女性の交際はそれだけで
目立つしスキャンダラス。
ヒラリーとスティーヴンのデート。
真っ赤な2階建てバスでビーチへ出かける。
2人は固く手を握っている。
そして砂のお城を作り、
スティーヴンの元恋人の話しで機嫌を損ねたヒラリーは砂のお城を
壊してしまう。
この映画は建物や海辺のに面した映画館そして舗道も季節も
すべて色彩が美しく映像がなんともロマンティック。
だが黒人を好きになった自分に強いプレッシャーを感じるヒラリーは
次第に精神に変調を来して行く。
統合失調症のヒラリーは、多分、病気が重くなるとともに、
被害妄想が高じてきて、攻撃的になるのだと思う。
エリスの企画した
「炎のランナー」のプレミア上映会で飛び入りのスピーチをする。
そしてホールで今までの鬱憤を晴らすようにエリスの妻に、
エリスのヒラリーへの蔑視やセクハラを暴露してしまう。
そして白人と黒人のデモと抗争の日、暴徒が正面玄関のガラスを叩き割り
「エンパイア」に雪崩れ込んでくる。
そしてスティーヴンは白人のレイシストの標的となり、激しい暴力を受けて
大怪我をする。
とても悲しい現実なのですが、サム・メンデス監督はそれを決して解決のつかない
悲劇として描きません。
どこか暖かく、そして柔らかい視線です。
「詩が好きで良く暗誦しているヒラリー」
映画館に勤めているのに映画を観る時間のないヒラリー。
スティーヴンはヒラリーに映画を観ることを勧めます。
「ブルースブラザーズ」「レイジングブル」
「オール・ザット・ジャズ」「トランザム7000」
「ピンクパンサー」などの題名が会話にのぼります。
「炎のランナー」は支配人のエリスの希望で大々的に
プレミア上映される映画。
(炎のランナーって、ユダヤ人差別を描いた映画なのに・・・)
ラストでヒラリーがノーマンに頼んで映写してもらうのは、
ノーマンお薦めの「チャンス」です。
(私は名前も知らない映画です)
映画館へ足を運ばなくても映画の観れる今日この頃です。
サム・メンデス監督はだからこそ、
改めて映画を映画館で観ることの価値と素晴らしさを、
伝えたかったのかも知れません。
受け入れること。期待すること。
一筋縄ではゆかない、ぐっと大人の人間ドラマだった。
「期待」することは人を何度でも生まれ変わらせる。
生まれ変わるということはある種の錯覚で、
それは映画のフィルムが一定の早さでコマ落とされると、
合間の闇が消えて光だけが見えるように。
そうとらえる。
痛めつけられた人生に期待もなく、
だからして受け入れ難いもので埋め尽くされた中を生きる主人公が、
映画が見たい、というシーンにノックアウトされる。
そんな風にきたか! と。
無邪気に鑑賞する姿へスポットライトを当てた作品は多いが、
そんなぐあいに無邪気と物語を受け止められる心持ち、
受け入れ信頼したからこそ期待し、
胸躍らせて鑑賞できることの素晴らしさ、
へ焦点を当てるとは思いにもよらなかった。
人種、歳の差、道徳的に、混然一体として清濁飲み合わせるも、
ゲスくもグロくもならない匙加減がスゴイ。
あの曖昧な距離感を、描き切った繊細さに脱帽する。
映像も最低限はおさえるも、控えめで簡素な描写が「和の心」かとシブかった。
看護師お母さんの存在感、説得力がありがよかったなー。
久しぶりに憎たらしいキャラに会ったよ、劇場支配人!
いろいろな問題をさりげなく盛り込んでいたのだなと観ていた。 そのせ...
いろいろな問題をさりげなく盛り込んでいたのだなと観ていた。
そのせいで心折れて、そのまま生きていくしかなかったかもしれないふたりが、なんとか踏ん張って、前に進んでいくように感じた。
問題が解決したわけではなく、これからも続いていくのだろうけれど、それでも進み続けていく気がした。
劇場の仲間たちがとてもいいな、と思った。
まあまあ。
前半は、エロ映画かよ!って思っても我慢して観ました。
彼女の過去が分かると、それなりに物語性がでてきて
なんとか最後まで観ました。
が、期待したほどのものではなかったです。
コールマンさんは好きなので、なんか残念。
なんか、中途半端な感じでした。
『エンパイア・オブ・ライト』鑑賞。殻を破り、先を見据えた一歩を。静...
『エンパイア・オブ・ライト』鑑賞。殻を破り、先を見据えた一歩を。静かだか強く、グッと引き込まれる作品。美しい映像と優しく荒ぶる音楽、映画館で観れて良かった。
人生の再出発
サム・メンデスらしい映像に美しさも感じられて
何をどういう風に表現すればいいのか分からないけど
心に残る映画でした。
オリビア・コールマンの秀逸の演技も素晴らしく
館長を除く映画館の仲間の優しさも心地よかった。
スティーヴンを取り巻く現実には憤りを感じずにはいられなかったが、
スティーヴンが人生の再出発をすると同時に
主人公ヒラリーも人生を再出発できるようになったことが
素直に嬉しかった。
フィルム上映が観たくなる映画
早くもDisneyプラスで配信鑑賞。取りこぼして来た青春が、彼との出会いによって再興していく。エンパイア劇場のライティングや海辺のロングショット、オリビア・コールマンを時には乙女のように、時には醜い中年女として、カメラは印象的に捉えていく。映画館は人を選ばず、差別や不遇を忘れさせる度量の大きさに、常に救われていることに思い至った。良き作品でした。
鳩と人間は住み分けが出来ている
イギリスのエンパイア映画館で働く精神不安定の中年女性と黒人の青年の話。
社会背景に差別などがある。
静かではないシーンもあるものの、全体として問題を静かに問いかけつつ、人間の温かさを描くきれいな質感の作品である。
良い点
・役者の目
・釣れないのは人に聞かなかったから
悪い点
・タイトルがわかりにくい
・鳩の菌
・わざわざ見つかる
・母や元恋人がわかりにくい
その他点
・ゾンビ軍
味わい深いスルメ映画
統合失調症を患う中年女性、人種差別に苦しむ黒人の青年、片田舎の落ち目の映画館と、登場人物や舞台を列挙すると暗い印象があり、登場人物にとって辛い出来事も起こるが、後味の悪さが残らない結末となっている。
派手な演出はなく、やや平坦で予想しやすいストーリー展開ではあるものの、ロケ地の選び方やカメラワーク、俳優陣の演技などに映画づくりに対するこだわりを感じる。
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