ファミリア(2022)のレビュー・感想・評価
全88件中、81~88件目を表示
(1/11情報追記) 2つの見方ができる映画/(一応)2023年版「マイスモールランド」?
----
★ 1/11追記は一番下にあります。
----
今年7本目(合計660本目/今月(2023年1月度)7本目)。
※ この前に「噓八百なにわ夢の陣」をみたのですが、この映画にレビュー要素が見当たらないので省略します(ネタ枠とは言わないにせよ、お正月のドタバタ枠?)。
こちらの映画です。
大きく分けて2つの見方ができると思います。一つは、「守りたかったものが守れなかった、多くの人たちの葛藤」という論点、そしてもう1つは当然のごとく「在日ブラジル人と日本とのかかわり」という論点です。
行政書士の資格持ちで、常日頃から外国人問題に興味関心を持っている立場としては後者の立場でみました。特集などからもその見方も一定数想定されているように思えます。
以下では「その後者の立場にたった場合」の採点になります。
------------------------------------
(減点0.3/在日ブラジル人と日本の関係の描写がどうしても不十分)
・ この映画、実は「どこが舞台か」は明確に出ません(ただ、いくつかの描写から、愛知県であることはわかります)。そして、在日ブラジル人は日本では、愛知・静岡で6割を占めます(逆に、日本の首都や第二の首都である東京・大阪ではマイナー)。
以下、映画とかさなる点もありますが、在日ブラジルと日本のかかわりについて知る範囲、調べた範囲で書いておきます(映画内には大半出てきません)
----
(前提)
・ 在日ブラジル(2世、3世…)については、先行する「ブラジル移民」という日本の先行した事業がもとになってできた事情があるため、日本では扱いが特別です。
なお、南米の国の中で、ブラジルだけが「ポルトガル語」である(他はスペイン語)点は注意です。
(日本とのかかわり)
・ 上記のように、扱いが特殊という事情がある一方、単純労働で多く従事した経緯があるため、愛知県・静岡県(西部)で全体の6割を占めます(平成30年度データ)。
※ ほか、三重県、岐阜県など。要は「東海地方に集中している」ということです。
このため、国土交通省のガイドライン(交通案内等の言語は、日本語、英語を中心に4言語とし、地域事情を考慮して加えることもできる)から、愛知県や静岡県西部では、現在でも「ポルトガル語」(実際はブラジルポルトガル語)の看板等が見られます。
一方、単純労働で多くの外国人を受け入れた当時(リーマンショックの少し前)までは、日本自体でそもそも「ポルトガル語」の認知度が低く(スペイン語と混同されることもあった)、そもそも論で「道徳・マナー」に関する学習教材が少なく、ゴミ出しマナーや、軽犯罪・微罪と言えるもの(万引きや車荒らしなど)も見られましたが、現在では改善されています(これらが日本では(程度の差はあれ)犯罪だ、という認識差があったし、学習教材も足りなければ、意味不明だったり誤訳等は普通にあり、当事者を混乱させた)。
※ 日本の首都東京や、第二の都市、大阪では在日ブラジル人はほとんど見られなかったという事情も実際存在し(現在も同様)、愛知、静岡という「地方都市」が先だって取り組んだものの、どうしても主要都市とはまだ知見の差があり、いろいろと「必要な手助け」が遅れたのも事実です。
映画内で描かれるようにリーマンショックで多くの単純労働者が解雇されたことは事実で、これにより、子供への日本語教育が遅れて「負の連鎖」を生んだのも事実です。
一方、当時の「日本語教育」は主に、韓国・中国など「漢字文化圏」を想定した作りになっており、「漢字文化圏でない外国人への日本語教育」は試行錯誤でもありました。
このような事情のため、単純労働で生まれた yakin(夜勤)や baito(バイト)などの独特な単語が生まれたほか、日本の労働文化の特徴の「頑張る」(ganbaru)から、ポルトガル語の動詞 gambatear 「頑張る」が逆形成され、そこからポルトガル語の一般的な動詞の活用からこの動詞が一般的に使われるようになるなど、独特のポルトガル語語彙・文法が形成され、これがまた帰国事情にも影響を与えました(そのような語は現地には存在せず、コミュニケーションにも支障をきたす)。
----
※ このため、日本で暮らしていく、という前提でひとつ重要になる「日本語の力」を客観的にはかる「日本語能力試験」(便宜上、現在の名称。当時は2級と3級の差がありすぎるとされた4段階だったため、現在は5段階で施行)も、「夜勤」や「遅番」といった「特殊すぎる」語ばかりが優先された当事者にとっては、あまり参考にはなりませんでした(←これらの単語は少なくとも初級で学習するような語とは言えない)。
----
(母国とのかかわり)
上記でも書いたように、在日ブラジル人は特殊な事情があるため、帰化条件が比較的緩く設定されています。
しかし、「日本語ができること」と、「契約形態は問わないから(当時はリーマンショックだったので、外国人はおろか日本人も多くの影響を受けた)、300~400万円程度の年収はあるか」も満たすことができなくなり(原則、生活保護を受けていると帰化は許可されない)、一方で上記にも示したように「在日のポルトガル語」が特殊な発展を遂げたこと、さらに、ブラジルの労働需要も日本の事情と一致せず(BRICS成立、ブラジルW杯、大統領選などでバラバラだった)、「帰ることも残ることもできない」という状況になりました。
(時代によっては、国内(ブラジル国内)でさえ雇用の奪い合いになっており、在日ブラジル人はその性質上、日本で労働した経験があるため相当な技術力があるとみなされたため、国民からは「雇用のパイを奪う」と考えられていた)
------------------------------------
…といった、在日韓国、中国の方とは「論点の異なる大きな点」があることは紛れもない事実です。
この観点でいえば「在日ブラジル人とのいろいろなできごと」を扱う映画なのか、というと全然違うし(まったく違うわけではないが、表立っては出ない)、いろいろな見方が可能だろう、というところです。
ただ、個人的には「外国人の人権枠」という趣旨でみたので、こうした点は気になりました。
(減点なし/参考/不動産登記について)
・ 映画の中で、不動産登記書を渡してお金を借りるシーンがありますが、当事者間では有効ですが、第三者に対抗(ここでは、登記の有り無しを主張すること)するためには、登記が必要です(民法177条)。
----
★ ここから、1/11追記
----
(減点なし/参考/日本人側の「危ない人たち」がブラジル人に抱いていた事情)
・ 「自分の娘が…」という部分です(詳細ネタバレ回避と、被害者加害者の名誉による)。
この事件は、本映画それ自体が「実際の出来事とは関係ありません」とはしますが、実際に同趣旨の事件が起きた事件です(2005年)。このとき、加害者のブラジル人は勝手に帰国しています。
しかし、日本とブラジルには「犯罪人引渡し条約」が当時締結されておらず(現在、2023年でも結ばれている国は少ないです)、結局「現地での刑法で処罰する」(代理処罰という)ことしか期待できなくなりましたが(日本や、日本の被害者を応援する会などは引渡しを要求したり署名を提出したりした)、日本の刑法に時効という概念があるのと同様に、ブラジルもこの事件に対しては時効適用、無罪とした経緯があり、これが一部の被害者を激怒させた、という事情はあります(映画内と違い、ブラジルにいって抗議はされていないようです)。
ただ、「犯罪人引渡条約」というのは、「相手あっての条約」ですから、勝手に強制することは原則できません。また、日本も「過度に」ブラジルに抗議することもできません(内政干渉にあたります)。このような特殊な事情が映画内には見え隠れしています。
「家族」の話のはずが「暴力」の話になってしまっている・・・
日本で半グレの暴力に苦しめられるブラジル人の姿が延々と描かれる一方で、アルジェリアでは、日本人がテロリストの暴力の犠牲になる。
「家族」の話かと思いきや、こんなにも「暴力」に満ちた、陰惨で重たい映画だとは思わなかった。
結局のところ、暴力には暴力で対抗するしかないのだろうが、いくら役所広司でも、半グレ集団のところに単身で乗り込んで行ったら、返り討ちに合うだけに違いない。そう思って見ていると、なるほど、そういうことだったか・・・
老人の、体を張ったケリのつけ方からは、否が応でも「グラン・トリノ」が思い起こされる。移民の子を救うというところも、テーマ的に重なっている。
こうした着地の仕方には、それなりに納得がいくものの、その一方で、あまりにもバイオレンス色が強過ぎて、肝心の「国籍や人種を越えて家族になる」という話が霞んでしまったのは悔やまれる。
絆と生きることと障害を取り除く正義感
人の命は地球より軽いのか?魂が揺さぶられた!
キラッと光る逸材
ここ数年、私の「劇場鑑賞する・しない」の選定基準について、特に邦画については「監督」で判断をすることが多くなってきました。まぁ、それなりに作品数は熟してきた(劇場で観てないものも、配信で観られるものは出来るだけ履修しています)という自負からの判断ですが、あくまで私の基準ですから単なる好みだとも言えます。で、成島監督作品について実は「ややネガティブ」な位置づけ。正直、今作も当落線上においていたものの、約2週間ぶりの劇場鑑賞という「飢えた状態」の勢いに任せて観てまいりました。
で、鑑賞後の感想ですが、残念ながら懸念は覆されることなく、今作も心に引っ掛かるとことがなく、おそらく数か月後には記憶に残っていないだろうという印象です。
ちなみに、成島監督と言えば『孤高のメス(10)』『八日目の蝉(11)』が印象に残りますが、逆の言い方をすれば、それ以降の作品(今作も含め)についてあまり「アップデート」が感じられません。
特に残念な点として邦画にありがち、と言うかそれが邦画に限らないとしても、言葉がわかるだけにニュアンスまで汲み取れてしまい鼻につく「あんに善を惹き立てるための、極端で安易な悪の描き方」に辟易します。今作においても幾つかの「対立構造」があり、例えを挙げれば枚挙にいとまがありませんが、例えば(全体からしたら小さなシーンですが)某役人(女性室長)の態度・言動など「未だにそういう演出ですか」とがっかりした気持ちになります。
それでも唯一「キラッと光る逸材」が誠治(役所)の息子・学(吉沢)の妻役ナディアを演じたアリまらい果(Malyka Ali)さんが素晴らしい。演技がやや上滑り気味の吉沢さんの横で、穏やかで抑えた演技は初挑戦とは思えない堂々としたもので今後が楽しみ。日本語・英語・ウルドゥ語のトリリンガルとのことで、是非、日本に止まらない活躍を期待しています。
と言うことで、本編上映直前には次回作『銀河鉄道の父(5月5日公開予定)』のトレーラーが流れていましたが、私的には成島監督作品はもう配信でいいかなと思っています。ごめんなさいね。
ちなみに保険を打つわけではありませんが、日本アカデミー賞とかでは評価が高そうな予想も付け加えておきます。揶揄する意図ではなく、私との選定基準の違いを言っていますよ。悪しからず。
生きて行く者たちは人と繋がって
小さな街で起こる多種多様の住人たちの「家族」の物語。
これでもかと広がった、境遇・出自・家族観など全く異なる登場人物たちが紡ぐ物語をどのような形で着地させるのだろう?試写会を観ながら先の展開が見えずハラハラ・ドキドキ、しかしそんな鑑賞者の心情など全く関係なく、辛く・切なく、そして悲しい方向へとストーリーは展開していきます。
そんなとっ散らかりようを豪華キャスト陣の濃厚な演技がカバーしてくれて、飽きることのない120分余りとなりました。
途中のシーンでブラジルからの移住者が「夢の国日本」へやってきたのに、と嘆きますが、日本からも「夢の国ブラジル」と思い込み、志を抱いて移民となった日本人もかつては大勢いたのだよなぁ、なんて感傷に浸る場面もありました。
ひたすら絶望し、暗澹たる気持ちで涙する中、常にポジティブ、笑顔で皆を率いてくれた吉沢亮さんが私の中ではMVP的に素敵でした。
試写会を観てのレビューなのでネタバレ的なことは書けません。
しかし、本作品のようなエンタメ要素に乏しい作品は上映館が少ないのが残念(全国でも100ほどの劇場だそうです)。
今、我が国が抱える問題から目を逸らさずに考える機会を映画から得たっていいじゃないかと思わされる作品でした。
脚本が良かった、それでもまだ掘り下げられる部分もあったよな、そんな風に感じられる良作だと思います。
全88件中、81~88件目を表示