劇場公開日 2023年1月6日

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「考えると、粗探しになってしまう」ファミリア R41さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5考えると、粗探しになってしまう

2024年7月8日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

英語のファミリアは、「よく知られた」「ありふれた」という意味でつかわれるが、ポルトガル語では「家族の絆」という意味があるようだ。
この作品は、その家族にまつわる交錯した関係から、人間本来の家族の姿を捉えようとしているのだろう。
「ゴッドファーザー」でもそうだが、自分の家族は絶対だが、他人はゴミ扱いするのが私が勝手に持つ外国人のイメージだ。
この物語は逆に、日本人の半ぐれエノモトが、かつて酔ったブラジル人の車に妻子をひき殺されたことで、ブラジル人全部を目の敵にしているという設定だ。
この概念は、復讐であり、アルジェリアの多国籍テロリストとの関係はわからないが、世界各地で起きている紛争と似ているのだろう。
アルジェリアの事件も外国人が子供たちが歩く歩道に突っ込んだ事件も実際の事件をモチーフにしている。
主人公誠治の息子学の妻がアルジェリア人ナディアという設定は、この作品が人種や民族の枠を超えていることを示唆している。
冒頭に登場するブラジル人たちの集まる場所での大音量でのバカ騒ぎは、日本との文化的な齟齬を感じざるを得ず、この作品が伝えたい部分でもあるように思った。それでいて、人種関係なく「家族の絆」について描こうとしているのだろう。
しかし、
多国籍テロリストは金が目的
この邪な目的のためのテロであり殺人について、何も問うてないところが気になる点だ。
エノモトの動機はわからないわけではないが、日本人としてわかりにくく共感できない。しかしここは日本人以外の設定はできない。
最後は警察が踏み込み全員逃げ出すが、誰一人エノモトを顧みる者はいない。
彼らはシャブという名の金づるのつながりしかないと言いたいのだろうが、河原でのBBQのシーンもその他のシーンも、お金や主従関係というより「北斗の拳」に出てくる「その他のワル」程度の人格しか与えられてないところが、細部のアラになってしまっている。
エノモト以外その他のワルたちの動機が金とはいえ描かれ方に厚みがない。
さて、
かき集めたお金も政府は受け取らず、息子夫婦が殺され、その金でマルコスらを救うという手段を取らなかったのはよかった。
これはお金では何も解決しないことを描いている。
その通りだろう。
しかし、
マルコスが暴行されて心臓が止まったが、病院に駆け付けた誠治が半ぐれを襲撃する展開は少々急ぎ過ぎてはいないだろうか?
誠治には復讐という概念はないが、事前にタカシにエノモトのところに踏み込むことを伝えているので、捨て身だったのは間違いないだろう。
息子夫婦もいなくなったことがそうさせたのはわからないではない。
さて、
日本人嫌いのマルコスが徐々に誠治に惹かれていく。自分の父に風貌が似ているのだろうが、この設定は心と心の絆という概念を薄めてしまうように思う。
キャバクラで働かざるを得ないエリカが日本人を、誠治をよくわかっているような設定も若干不自然だ。
最後にマルコスとエリカが陶芸窯の仕事を教えてくれと来るが、彼らが将来のファミリアになるように描いている。
そこにこの作品の思いが込められている。つまりこの作品のタイトルは「家族」よりも「絆」の方によりウエイトが置かれていて、「絆」とは日本人どうしでなければならないことはなく、師弟関係でも一般的にある。それはまるで家族のように強いのだ。とこの作品は言いたいのだろう。
しかし、
アルジェリアの事件が起きなければ、誠治にはそこまで彼らに付き合う気はないだろう。誠治の大きな心の喪失があってこの物語が起きたのだとすれば、人はみなそんなことがなければ分かり合えないということだろうかと受け取ってしまう。
考えるとどうしても粗探しにならざるを得ないところが惜しかった。

R41
りかさんのコメント
2024年7月11日

エノモトには共感できません。逸れますが、この俳優演技下手過ぎでした。
ストーリーが盛り沢山過ぎてレビューにありますよう、説明不十分で深みなく、アルジェリアのテロでの息子夫婦の殺人は、必要あったのかとも思いましたし、無いとマルコスとも深まらないのもでしょうか。マルコスともとってつけたようで。役所広司さん出演なのにもったいなく感じた作品でした。

りか