「これがリアル…な訳ない!」ファミリア 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
これがリアル…な訳ない!
焼き物職人の男。
アルジェリアで働き、難民の女性と国際結婚したその息子。
ひょんな事から彼らと交流を深めた在日ブラジル人の若者たち。
これだけなら国を越えた人と人の触れ合い。成島出監督は『草原の椅子』でも異文化との交流を描いていた。
が、スケールの大きい感動作かと思ったら…
在日ブラジル人たちを圧する半グレ集団。
アルジェリアに戻った息子夫婦を悲劇が襲う…。
思わぬバイオレンスやハードな展開、社会派問題に驚きを通り越して唖然…。
それらが巧みに描かれていたら良かったんだけど…。
在日ブラジル人コミュニティー。愛知県に実在する巨大団地だという。そんな所があるとは知らず、目から鱗。これに目を付けたのはいい。
言うまでもなく役所広司の名演。
オーディションで選ばれた在日ブラジル人キャスト。日本語が上手くてびっくり。
良かったのはそれくらい。
とにかくこの作品、何を描きたかったのか分からない。
焼き物職人の男の下に国際結婚した息子が報告の為に帰国して来て、跡を継ぎたいと伝えるが、父親は断る…。この父子ドラマが主軸と思っていたら、違う。
アルジェリアに戻った息子夫婦はテロリストの人質になる。父親は外務省にまで出向いて直訴するも、息子夫婦は…。テロの恐怖。これを描きたかったのか…? 違う。
在日ブラジル人青年は男に亡き父親の面影を重ねる。焼き物を手伝わせて欲しいとお願いする。この国を越えた交流や焼き物文化こそがメインだろうと確信するも、そうでもなく。
半グレ集団は在日ブラジル人たちを虫ケラ同然の扱い。半グレ集団って怖い。在日ブラジル人たちを守る為、男は…。ここが見せ場…いやいや、突飛な展開にもはや失笑レベル。
一応この作品、国や境遇を越えて“家族”になろうとする…という触れ込みだが、そこにテロや半グレ集団など本当に描く必要あったのか疑問の要素を織り込んだ事で、詰め込み過ぎと言うより、焦点がボヤけてしまっている。ズバリ言うと、とっちらかっている。
在日ブラジル人たちの知られざる現状、国際問題であるテロ…国内外のリアルを訴えたかったのだろうが、展開や描写など非現実的。
在日外国人の現状を描いた作品では在日クルド人を描いた『マイスモールランド』があったが、あちらはあまりにも不条理な現状を胸が痛いほど描いていたのに、こちらは生きる為に犯罪に関わってしまう…など、一見同情的に描いているようで、非常に安直的。当の在日ブラジル人たちが見たらどう思うか。もしこれが現状と言うなら、それこそが差別的だ。
半グレ集団も酷い。まあ、そもそもが真っ当な輩ではないが、差別を助長するような問題レベル。
そのリーダーが在日ブラジル人たちを忌み嫌う理由はあるが、悲劇的ではあるが、同情までには至らない。たまったもんじゃない。
在日ブラジル人たちを守る為、文字通り身体を張った男。『グラン・トリノ』な展開みたいだが、全く足元にも及ばず。って言うか、無謀過ぎ。
それから言うまでもなく、多くの方が突っ込んでいる屋上ラブシーンが…。
駄作とまでは言わないが、凡作と言うか、せっかくの題材やキャストが勿体ない。惜しい。色々と残念。
リアルに描いているようで、リアリティーがなさ過ぎる。
これがリアル…?
な訳ない!
本当に、何を描きたかったんだか…。
役所広司繋がりで、ちょっとこの場を借りて。
詳しくはその作品を見た時に書くとして、一言だけ。
おめでとうございます!