劇場公開日 2023年1月6日

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「ブラジル期間工問題」ファミリア 屠殺100%さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ブラジル期間工問題

2023年1月7日
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人の世は、ほんとに様々な矛盾をかかえております。

トヨタ自動車のホームグラウンド、豊田市が舞台で、自動車工場の製造工、とくに派遣や期間工は今や日系ブラジル人の方や、東南アジアからの技能実習生等の外国人の方々に支えられてることは、周知の通りですが、雇い止めによる外国人期間工の急激な貧困化、とくにリーマン・ショック時の一斉雇い止め問題をチラッと匂わせております。

失業手当をもらえばいいだろう?とか、トヨタだから給料よかっただろう?とか、一回帰国してまた戻ればいいじゃん?とか、雇い止め後にクーリング期間あけてまた雇ってもらえばいいじゃん的な他人事的発想で問題を非人道的に矮小化することもできますが、もし自分が同じ立場ならそんなこと言われたらキレますよという話。

でも、これで製造業に勤める日本人が飯を食わせてもらうというのは、なかなか居心地の悪いハードな問題。

そして雇用促進団地はブラジル人だらけ。かなり不謹慎な表現ですが、わかりやすくいうと銃なしの超リトルシティ・オブ・ゴッド化していくという話です。闇は深ければ深いほど、怖い、悲しいといった人の感情に訴えかけますからドラマティックになるわけです。

日産のある横浜、スズキのある浜松、ホンダやスバルの工場がある群馬や栃木、マツダのある広島、バイクでもいいですが、その他全国各地で少なからずある話と思います。

銃はなくとも、包丁やスコップはあるわけで。

貧困や無意味な外国人差別は犯罪の温床や治安悪化につながりますよ、という単純でつまらない説教で終るならわざわざ映画にしなくてもよいのです。差別はリアルなものは描かれてません。特定の恨みをもった半グレを登場させることで無理やり差別感情を映画全体に漂わせてる感があります。それでも、ドラマを暗く盛り上げるには必要だったと思います。

外国人労働者を同一賃金同一労働でこれから雇うのか?とか話は複雑ででかくなりすぎるので、役所広司と吉沢亮の演技と人気で収めておきましょう、ということでしょう。そして、ブラジル人の役者さんも当たり前だけどリアルで素晴らしい。

今をときめく吉沢亮はここ最近どんだけ映画出てるんでしょうか?このような社会派映画にも出演。お体大丈夫でしょうか?というより、なぜかプラントメーカーに就職して治安の悪い国に勤務。トヨタ自動車がある街で、英語もできて、プラントメーカーみたいなエリート会社に就職できるくらいデキる人なら、地元でよくない?みたいな、野暮な疑問もわきますが、外国人労働者の多い街に生まれ、外国人労働者の貧困や差別をみてきたので、そういう人たちのために働きたかったということでしょう。そう捉えるのが人の道というものでしょう。

それが、そういう純真で素晴らしい人を、何も知らないテロリストが、私利私欲、怨恨晴らし、仇うちに利用するというところから、物語は一気にダーク化します。

役所広司も、息子の吉沢亮に劣らず、ものすごく優しくていい人。でも、昔は手がつけられないワルだったということで、怒りの発露はプロ中のプロだったはず。まさかの不幸続きで、いつ来るかと期待感が募ります。その怒りがいつ爆発するか?というスリルが見物なんですが、暖簾に腕押しというか、なかなかどうして怒りを沸き立たせない。う~ん。いつ怒るの?

それが、さらっと突然優しい素顔のまま殴り込み。なんか、爽やかなやり方。もうちょっと怒りを爆発させて、悪いやつをメタメタにして、観客に待ってました!を言わせてもよかったんじゃないか?

見た目がまんまなので、スコップではなく、『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシクばりにハンマーでやってもらえれば盛り上がったはず。

しかし、豊田市はあんなマッドな街なんでしょうか?半グレが幅をきかすというのは、この暴対法の時代にありえないので、そこはかなりファンタジーでした。

屠殺100%