「上質な孤爪研磨ポルノ」劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
上質な孤爪研磨ポルノ
テレビシリーズから劇場版へと物語がシームレスに続くスタイルは『東のエデン』の頃こそ目新しかったが『鬼滅の刃』以降はすっかり常套化してしまった感がある。特に週刊少年ジャンプ連載作品は『鬼滅』然り『呪術廻戦』然りさも当然のようにテレビシリーズと劇場版を往還するものだから驚いてしまう。
『ハイキュー‼︎』シリーズもまた例に漏れずジャンプの人気作品であり、テレビシリーズ1期から起算して既に10年以上の時が経つにもかかわらず今なお絶大なコンテンツ力を誇り続けている。
本作はテレビシリーズ4期の続編という位置付け。相対するはかつて「ゴミ捨て場の決戦」を演じた東京の強豪校、音駒高校。烏野高校の「飛べ」と対を成すかのような「繋げ」という横断幕が印象的だ。
音駒には作中屈指の人気キャラクター、孤爪研磨と黒男鉄朗が在籍しており、ゆえに本作にて演じられる烏野vs音駒戦は『ハイキュー‼︎』のベストバウトとの呼び声も高い。となれば潤沢な作画リソースが確保できる劇場版というフォーマットで制作せざるを得ないのも納得できる。
満を持しての烏野vs音駒戦。その出来栄えは概ね満足のいくものだった。やはり画面構成の点において『ハイキュー‼︎』のアニメシリーズはきわめて突出しているように思う。さながら70〜80年代の実験映画かのようなアングルが、あくまでエンターテイメントの文脈を外れることなく次から次へと繰り出される。
特に面白いのがネットを真上から俯瞰するショットで、そこへ画面外から唐突にスパイクボールが飛んできたかと思いきやカメラがそれを追う。当然、目のフォーカスが定まる頃には音駒側のフィールドにボールが叩きつけられている。試合のスピード感と音駒の動揺を強調する衝撃的なショットだった。
他にも、終盤の研磨の一人称視点アングルも面白かった。高い位置から落ちてくるボールをトスするときって意外とギリギリまでどこに落ちてくるかわからないモンだよな…と高校時代の体育の授業を思い出した。
とはいえテレビシリーズに比べて本作はキャラクターコンテンツとしての側面が強調されすぎていた感は否めない。特に研磨の一挙手一投足に漲る性的なニュアンスはきわめて誇張気味で、健全なスポーツものというよりは腐女子の二次創作ポルノのように感じた。Twitterで「『ハイキュー‼︎』観に行ったら前の腐女子がずっと喘いでて最悪だった」的なツイートがバズっていたが、正直言って宜なるかな…としか思わない。
しかしながら製作陣の研磨に対する猛烈な性欲と「あくまでスポーツものの範疇を超え出てはいけない」という理性の相剋が、「相手を攻略したいが攻略してしまうとつまらない」という研磨の抱えるジレンマと重なり合った結果、魔術的なまでに存在感のある研磨像が立ち現れていたことは他ならぬ事実だ。
以下は完全に原作者の古舘春一の功績だと思うのだが、烏野に敗北後、泣いたのが研磨ではなく黒尾だという点に腐女子的フェチズムに対する確かな意地が見えた。
ここで研磨を泣かせるのは明らかに行き過ぎであり、私は本編が始まる前からそこを危惧していたのだが、最終的に研磨は涙を流さず、代わりに黒尾が泣いた。黒尾が泣くことには何の不思議もないし、普段の性格からして順当だ。
逆に、研磨は「ゲーム攻略のジレンマ」を打ち破る好敵手としての烏野高校を見出したことでバレーの楽しさを初めて主体的に感覚した。いわば彼のバレーは今まさに始まったばかりであり、そこにはロマンスドーンの喜びだけがある。そんな彼を泣かせるのは安易なフェチズムでしかない。だから彼を泣かさないという演出に私は非常に好感が持てた。
一部原作ファンには不評らしい本作だが、アニメシリーズを追っているファンにとってはいつも通りの面白い『ハイキュー‼︎』が楽しめるかと思う。田中の活躍があんまり描かれていないのは不服だったが…
次回も劇場版にて製作されることが決定しているそうだが、次はもう少し長尺でもいいんじゃないかと思う。なんなら3時間くらいあってもいい。10話しかない白鳥沢編でさえ時間に換算すれば7時間程度の尺なのだし…