「作画はいいけど本編85分は短すぎる」劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 エビフライヤーさんの映画レビュー(感想・評価)
作画はいいけど本編85分は短すぎる
まず最初に出てくる感想は「とにかく作画がいい」ということ。
クオリティの低い作画に派手なCGやエフェクトを重ねて、なんとか画面のリッチさを保とうとする低予算アニメが量産されるなか、この作品は作画において逃げや誤魔化しがほとんどない。アニメならではのコミカルでエモーショナルな感情表現、本物のバレー試合を見ているかのような実写的な身体表現。その両方を駆使し、真正面から「アニメーションで最高のバレー試合(ゴミ捨て場の決戦)を描いてやる」というスタッフの強い気概を感じられます。とにかくキャラクターたちが生き生きと動き回ります。
試合中のちょっとした反応や目線のやり方、アップで写る指先の1本1本など、テレビシリーズでは省略されていた細やかな演技がひとつひとつ丁寧に描かれていて、観ているだけで楽しい。試合中の選手の動きもリアルで迫力があり、スタッフは実際のバレー選手の動きや試合をかなり研究してアニメーションに落とし込んでいるんだろうなと思います。特に、試合終盤に研磨視点で描かれる長いラリーは劇場版ならではの新しい表現ですね。観ているこちら側も思わず息を止めて試合に没入し、突然の終わりに研磨と一緒に唖然としました。バレー未経験の自分でそう感じるので、経験者の方は試合の緊張感をよりリアルに味わえるのではないでしょうか。
~以下、個人的に好きなシーンを挙げるなら~
・猛虎に円陣まで連行される研磨の顔(その後の腕の出し方に個性が出てて良い)
・「面白いままでいてね」の研磨(原作よりホラー感ある)
・ベッドで「ゲームオーバーよりゲームクリアの方が悲しい」と言っていた幼少期の研磨と、試合中に息も絶え絶えで「たーのしー」と言った研磨のごろ寝ポーズが一緒なとこ(原作とちょっとちがう….というかポーズ際どくない?)
・赤葦の「そうですね」のバリエーション
・「最後に笑うのは~」あたりのノリノリでキレキレの黒尾とリエーフ(あそこらへん作画がちょっと独特で勢いのあるかんじだった)
そんな感じで楽しめて、作画的には100点満点。
だけど、1本の映画としては65点くらいかなという印象です。
評価がやや低い理由は、脳内で原作から補完しながら映像を観る必要があり、1本の映画として独立完結していないからです。全5巻にわたるゴミ捨て場の決戦を85分の映画に詰め込むのは、やや無理があったのではないでしょうか。自分は原作を読んだのがかなり前で、大まかな流れしか覚えていない状態で映画を観に行ったのですが、ちょっとした会話やギャグの意図、一部の試合の流れが理解できず、家に帰ってから原作を読み直して「あ~そういうことか」とか「そういうキャラだったな」と納得しました。自分の理解力不足もあるかもしれまぜんが、内容を詰め込み過ぎたせいでストーリーの点と点があちこちに散らばってしまっていて、線で繋がっていない印象を感じます。なんとなく総集編というか、ダイジェスト映像を見ている感覚に近い気がしました。(音駒高校と鳥野高校のダブル主役かつキャラクターも多数なのでまとめるのが難しいのかもしれませんが)
過去の回想と現在の試合の相互作用(登場人物の過去を描くことで試合展開により熱を持たせる作用)もあまり感じられませんでした。例えば『THE FIRST SLAM DUNK』(本編124分)は試合途中に回想を挟むことで、終盤に向けてのエモーショナルな盛り上がりをうまく描いていました。また、原作を読んでいないと内容が理解できないということもなく、1本の映画として独立し完結していたと思います。そういった成功例をすでに観てしまっているため、「せっかくの劇場版なのにもったいない。もう少しアプローチが違えば、原作ファン以外にも広がる大ヒット作になったのでは…」などと考えてしまします。
脚本や構成で気になる部分はあるものの、作画はほんとうに好きなので3回目を観に行こうと思っています。