「豊作と言われた2023年のアニメ作品の中でダークホースともいうべき映画」ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック! tanさんの映画レビュー(感想・評価)
豊作と言われた2023年のアニメ作品の中でダークホースともいうべき映画
作品をどれだけ好きになったか?という点でずば抜けてよかったです。
タートルズたちがどんなこと喋るのか、どんなアクションを見せてくれるのか、とにかく彼らに共感し愛着がわく作品でした。
映画のジャンルとしてアクション、SF(少し不思議)やホビーアニメーションになると思うのですが、どこかこの作品の面構えは違うように感じました。監督やプロデューサーも今作はティーンエイジャーの未成熟で熱い、彼らの世界の中の葛藤や境遇を一つのテーマとしており、まるで青春ドラマをみているような心に刺さるシーンが随所にありました。
またこの作品の方針を、ティーンエイジャーがノートに描き殴って作った映像作品という位置づけだともおっしゃられており、荒々しく、勢いが凄まじい。しかしどこか懐かしい思い出の中のような、自分を見つめ直すような、彼らのやり取りを見ていると高校生だった自分たちに不思議と重ねてしまいました。
そんな魅力的なキャラクターたちをより魅力たっぷりに演出するのが、今作の素晴らしい点の一つである、映像と音楽です。
タートルズは夜に活動するので、基本的には夜のNYが描かれます。
映像はとにかく光の使い方が素晴らしいです。街の色とりどりの街灯が、彼らや世界を鮮やかに映し出し、下水道や地下鉄、旧市街など汚い印象の街がとても美しく表現されています。
そしてらくがきのような歪んだ造形がなぜかまったく違和感なく描かれ、このアンバランスさを成立させている映像の完成度は、近年の3DCG作品の中でも最高レベルだと思います。
さらに面白いのが、カメラワークも最近はやりのドローンやVFXを駆使したようなトリッキーな構図が少なく、実写映画のようなカットが多いです。それがまるでその場に彼らと一緒にいるような親近感がわき、彼らの生活感やリアリティを感じる一因となっており、抜かりの無さを感じました。
また、劇中で使われる楽曲がとても心地がよく、ストリートカルチャーをほうふつとさせるポップなビートを刻む音楽、これが映像と非常にマッチしており、とにかくシーン一つ一つに心がわくわくさせられます。
ヒップホップがもともと好きだったわけではないのですが、文化を感じる演出で使用されることによって、映画を見終わった後、ヒップホップ・・・好きになってしまいました。これには自分も驚きました。
とにかく、世界を救うヒーローアクションアニメーションと括ってしまうのがもったいない作品でした。これはちょっと変わった亀たちが普通に憧れる青春ドラマで、美しいNYの夜を舞台に繰り広げられる、まったくあたらしい映画体験でした。
日本でこれだけの作品があまり話題にならなかったのが非常に残念です。
とはいえ自分もタートルズシリーズは実はほとんど見たことがなく、たまたま先日マイケル・ベイの実写版を見てて知ったクチでした。ですので今作のような傑作を入り口に、タートルズシリーズがもっと広まってほしいなとも思った次第です。(ちなみにそのあとライズオブミュータントタートルをみてさらに度肝を抜かれた次第です)
そんな挑戦的な傑作をリアルタイムで見れたことが何より幸せでした。何度でも見返したい作品です。