劇場公開日 2023年9月22日

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「マイノリティがーが背景にある作品。何かの挫折で、閉じこもっている人がご覧になったら、とても勇気が出てくることでしょう。」ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック! 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5マイノリティがーが背景にある作品。何かの挫折で、閉じこもっている人がご覧になったら、とても勇気が出てくることでしょう。

2023年9月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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 ニューヨークを舞台にカメの忍者4人組の活躍を描き、コミック、ゲーム、アニメ、映画などさまざまなメディアで根強い人気を誇る「ミュータント・タートルズ」を、アメコミタッチの新たなビジュアルで映画化した長編アニメーション作品です。CGっぽくない、コミック風のラフなダッチが新鮮です。

■ストーリー
 15年前、シンシア・ユートロム(声・マーヤ・ルドルフ)はイエバエをはじめとする自身の突然変異動物の家族を形成するための突然変異誘発剤「ミュータンジェン」を作成したバクスター・ストックマン(声・ジャンカルロ・エスポジート)を追い詰めます。ストックマンはユートロムの攻撃部隊に妨害され、その結果起こった銃撃戦で爆死し、突然変異誘発剤はニューヨーク市の下水道に落ちてしまうのでした。
  ミケランジェロ(声・シャモン・ブラウン・Jr)、ドナテロ(声・マイカ・アビー)、ラファエロ(声・ブレイディ・ヌーン)、レオナルド(声・ニコラス・カントゥ)は、その「ミュータンジェン」に触れたことでミュータントとなったカメたちです。
 ネズミ養父であるスプリンター(声・なんとジャッキー・チェンexclamation ×2)によって育ちました。人間に追われたスプリンターは人間への憎しみに陥り、カメ兄弟に忍術を修行し、物資を盗むときだけ下水道から出るように指示していたのです。
 子供のころより“危険な存在”である人間から隠れて暮らしてきたタートルズたち。現在ティーンエイジであるカメ兄弟は、目立つ姿を隠すため地下や路地裏で身をひそめるように過ごしているのですが、中身は普通の人間のティーンエイジャーと変わりません。
 学校に行ったり恋をしたり、人間と同じ生活を送ってみたいと願いながら、拳法の達人であるスプリンターを師匠に、武術の腕を磨いていたのです。
 ある時、そんな彼らの前に、ハエのスーパーフライ(声・アイス・キューブ)を筆頭としたミュータント軍団が現れます。同じミュータントの仲間がいたことを喜ぶタートルズでしたが、スーパーフライ軍団は人間社会を乗っ取るという野望を抱いていたのでした。 “普通のティーンエイジャー”として彼らが住む大都市ニューヨークのみんなに愛され受け入れられたい!その願いを叶えるため、新たな友人エイプリル(声・アヨ・エデビリ)の助けを得つつスーパーフライ軍団の大群や謎の犯罪組織との戦いに繰り出すのでした。

■解説・感想
 本作の主人公たちは、ヒーローとは真逆のむしろ人間への憎しみを持ったネズミに拾われて育ち、毎日スーパーで泥棒を働き食いつないでいるというアンダーヒーローな存在として当初描かれます。それでも彼らは普通のティーンエージャーとして、人間世界に受け入れてもらいたいという願いを持っていたことが大きな伏線となりました。
 別にヒーローとして世の人々を救いたいという大義は、サラサラになく、スーパーフライ軍団と戦うことで、もしかして多くの人に受け入れられるのではないかという淡い打算から、彼らは立ちあがったのです。なので彼らを戦いぶりを見守っていた人間たちから、歓声を持って、ハグされたとき、カメ兄弟たちはとても意外に思ったのでした。
 この作品に横たわっているのは、マイノリティの問題です。
 マイノリティに属する人たちは、多数派の白人社会に引け目を感じて、自分立ちの社会の中で暮らしています。自分たちは、カメ兄弟同様に、社会の中で普通に暮らしたいと願いつつも、そんなこと無理だろうと諦めているのが普通なのでしょう。
 けれども本作でジェフ・ロウ監督は、強大な敵が現れ、社会全体が危機に訪れるとき、多数派もマイノリティも関係ないことを示したのでした。そんな壁を強大な敵の存在が打ち壊して、みんなが一致団結すれば、何とかなることを示したのです。
 この体験を通して、カメ兄弟たちは自己限定していた自身の心の壁を乗り越えて、人間社会に飛び込んでいくのでした。そしてやっとヒーローとしての自分たちを自覚するのです。
 もし今何かの挫折で、自分自身に壁をつくり、閉じこもっている人が本作をご覧になったら、監督からのメッセージをキャッチし、とても勇気が出てくることでしょう

流山の小地蔵