「気付かずに繰り返す」The Son 息子 つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
気付かずに繰り返す
フロリアン・ゼレール監督の前作「ファーザー」はその斬新さで多くの人を驚かせた。それに比べてしまうと本作はかなり普通のヒューマンドラマといえる。
何がダメというわけではないものの、ある種の「衝撃を受けない」というのは少々残念ではある。
ヒュー・ジャックマン演じる主人公ピーターは、息子ニコラスとの関係に苦労している。嫌っているわけではない。ただ、どう接すればいいのか困惑しているのだ。
ピーターは自分の父親を避けている。自分の考えを押し付けて全く理解を示してくれなかった父親を嫌ってすらいる。
ピーターは知らず知らずのうちに自身が嫌っている父親と同じような行動をとる。それは、あれをしろこれをしろと自分の価値観で息子に指示、いや、もはや「命令」する。
序盤からずっと、ピーターはニコラスに対して、何がしたいのか?とかどうしたいのか?などの、いわゆるニコラスの意思を確認しない。ニコラスがただの人形かのように。
もちろんそのことに対してピーターに自覚はない。過去に自分が受けて激しく反発した父親の言と大差ないことにも気付いていない。
世代が違えば価値観も違う。親子ほどの年齢差になるともう、全く分かり合えない可能性もある。
ピーターは自分の父親がおかしい人で、自分は普通の父親だと信じた。しかし実際はピーターの父親もピーターも普通の父親だったといえる。つまり裏を返せば、ピーターもまた、ニコラスからみて理解のない「普通の父親」だった。
ラストシークエンス、ピーターはニコラスの幻を見る。
立派になったニコラスの幻は、ピーターを愛し、尊敬し、感謝する。
こうなるはずだったというピーターの後悔かもしれないが、ここにきてまだピーターが自身の「間違い」に気付いていないようにもみえた。
子どものころに親から虐待されていた人は、自分の子に虐待することが多いらしい。
それはきっと親子の関係性をそれしか知らないからかと思う。愛し方、接し方が自分が受けたことからしか紡げないのだろう。
自分が嫌だったことでも自覚せずに繰り返してしまう。
映画的娯楽度は「ファーザー」にかなり劣るように感じたが、内容的には中々興味深い作品だった。
「ファーザー」と本作ともう一本で、家族三部作だそうだ。最後は「母親」だろうか。それも楽しみだ。