「覚悟を持って観るべき」The Son 息子 ユウか!さんの映画レビュー(感想・評価)
覚悟を持って観るべき
前作'ファーザー'を鑑賞した際、構成、ストーリー、ホプキンスの怪演、全てに引き込まれた。次作は、ヒュージャックマンとローラダーンが夫婦役で共演とのことで、双方のファンでいる私はとても楽しみにしていた。前情報は予告のみで鑑賞。
見終わったあと、あまりの衝撃で、しばらく席を立てなかった。心臓が重く、ヒリヒリし、絶望の涙が溢れた。もっと覚悟を持って観るべきだったと、強く思った。観たことを後悔することは無いが、生半可な気持ちで観ると、これは数日引きずる。いや、もっと引きずりそうなほど、私は今心が沈んでいる。
ピーターやケイトがニコラスにかける言葉は、常に少し的をはずれていた。ずっと(彼が今かけて欲しい言葉はそんなことじゃないのにな…)と観客ながらに思っていた。
途中で、『洗濯機の裏の拳銃』を匂わせてからの、洗濯機が回ってるシーン、ニコラスが洗面所に入るシーン等の不安の煽り方は、本当にとてもしんどかった。観客の多くは常に不安を抱えながら、映画を観ていただろう。"それだけは起こるな"と全員が思っていたに違いない。この監督らしい構成だなと思う。ニコラスが病院から家に帰って「シャワーを浴びたい」と言い出した時は、絶望的だった。今後起こる未来を、観客の殆どは想像出来ていたからだ。
シッターが熱を出し、ニコラスが赤ん坊の面倒を見るよと言い出した時は、(それはヤバいのでは無いか?)と瞬時に思った。ベスも同様のことを思っており、観客にベスの気持ちを理解させるような物語の進め方は上手いなと思った。'ファーザー'で「何が何だか分からないんだ」と言う認知症の父の気持ちを観客側に共感させる魅せ方をしていたフロリアンゼレールらしい魅せ方だ。
'ファーザー'同様セットも素晴らしかった。ピーターの住む高級な家はコンクリート?レンガ?壁の非常に冷たい印象を受けるのに対し、ピーターが出ていった元妻ケイトの家は家族が幸せに暮らしていたんだということが想像しやすい生活感の溢れる温かい家だった。ピーターの職場はビルの高層階で、地上で生きるニコラスたちは見下されているかのような見せ方だ。
『The Son』というタイトルも、予告を見た時はニコラスとピーターの関係性だと思っていたが、それだけではなくピーターと赤ん坊のセオのことでもあるし、ピーターも父であるアンソニーの息子なのである。父のようにはならないと思っていたピーターも、気づけば自分の嫌いな父のような当たり方を息子にしてしまう。世代を超えて描かれる、父と息子の、難しい関係。
この映画は正直一言で言うなら、『鬱映画』かもしれない。でも私たちはこの映画をその一言で終わらせてはいけない。でも、気軽に感想を言いたくないのが本音だ。深く、深く考えて、忘れてはいけないことである。気軽に感想は言いたくないが、この気持ちを言葉に表したいと思い、このレビューを書いている。
観て良かった、そう思う。今は心が重く、ヒリヒリするけど、観て良かった。