熊は、いないのレビュー・感想・評価
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日本ではわかりにくい点はあるが、仕方がない一作。遠く離れたある国の実情。
今年337本目(合計987本目/今月(2023年10月度)2本目)。
(参考)前期214本目(合計865本目/今月(2023年6月度まで))
映画館をチェンジしてこちらの作品に。
本映画は先月だったか「君は行く先を~」と同じイランを扱った映画で、国による検閲等が厳しい、また、日本からでは文化などを知ることが難しいといったいろいろな事情があり(特に前者のほう)、何を言いたいかよくわからない部分はかなりあります(この点は「君は行く先を~」と同じ)。
そうした事情(検閲逃れ)が背後にあるため「熊」が何か「いない」とは何か等は明示的に描かれることはなく、また映画を見ると、イランにおけるいわゆるフェミニズム思想について「日本からの見方ではおよそありえない」ような実態が語られているシーンが存在する(ただ、このことも否定的に描くと検閲にひっかかってアウトなのだろうと思われます)など、論点が多岐にわたる映画です。
こうした事情があるため、一見しただけで趣旨を理解しがたく、この点はただただ車をぐるぐるあっちこっち運転する「君は行く先~」と似た部分はどうしてもあり、この点、イランの検閲を避けて通ることはできないので、日本においてはどうしてもそれを通してしか見ることができず、どうしてもわかりにくいという部分もあります(なお、この地域の映画の特性としてイスラム教があげられますが、本映画でも「コーランがどうだの」といった語句以上のことは出ません)。
個々わかりにくい部分が多く、減点幅をどうするのかすら決められないという特殊な映画ではありますが、「遠く離れた、日本の戦前、戦中の検閲制度をはるかに超越した制度が今現在でも残っている国」における「せいいっぱいの妥協としてできた作品であろう」と思われる以上、多くは引けず、フルスコア切り上げにしています。
なお、映画の中ではやはりわかりにくい部分があり、どう見ても答え(映画の趣旨)がわからない部分がどうしても出てきますが、それは検閲によっていろいろカットされたり修正を余儀なくされたものであろうことから、「3回みたらわかるか?」とかというようなものではないので要注意です(多分、6割も理解できるかどうかも怪しい?)。
採点においては上記のような特殊な事情があること、また、特段それ以外でも差し引く要素まで見当たらないのでフルスコアにしています。
4寄り3.5
熊はいらない
凄い社会派サスペンス
初めて観た時はドラマかと思ったが、観るにつれてサスペンス、ドキュメントも含まれる作品になって驚きもあり、言葉が出ない。また、監督自身も作品に参加するが、イスラム教社会の現実、イスラム社会に巻き込まれ監督自身も大変だったなと感じた。イスラム教、イスラム社会の現実を知る上で適切な作品。最初は戸惑うかもしれない。
不撓不屈の監督自身を描いた力作
監督のジャファル・パナヒが、本人役として主演も務めた力作でした。全く背景を知らずに観ると何のこっちゃという感じですが、少しでもパナヒの置かれた状況を知ると、俄然面白くなって来る異色作でした。彼は1990年代から映画監督として活躍し、数々の国際的な映画祭でも評価を受けて来たそうですが、2000年代に入りイラン政府と対立。2010年には家族や友人とともに逮捕され、イラン政府へのプロパガンダの罪で懲役6年と、20年間の映画制作禁止という判決が下ります。
しかし執行猶予だったのか、直ぐには収監されず、秘密裏に映画制作を続け、2013年に「閉ざされたカーテン」、2015年に「人生タクシー」を上梓するなど、精力的に活動を続けている延長で本作が創られたようです。
映画の内容としては、現実の世界でも表立って映画を撮れない状況同様の映画監督として主役を演ずるパナヒが、偽造パスポートを使ってイランからヨーロッパに逃走しようとする男女2人のカップルを追跡するという映画を撮影しているところから始まります。最初はこの劇中劇、単なる創作なんだと思っていましたが、どうやらドキュメンタリー仕立ての(映画の中での)本当の話のようでした。この辺りは現実と虚構が入り交じり、何が真実なのか、そうでないのかが分からなくなってくるのが、観客を不安と陶酔に導いている感じで非常に面白く感じられました。
また表に出ることが憚られるパナヒは、トルコとの国境近くの集落にいて、リモートで撮影現場に指示を出しますが、この集落でも若い男女の駈け落ち騒動が勃発し、パナヒ自身も巻き込まれて行きます。パナヒが撮った写真を巡り、”よそ者”であるパナヒも窮地に追い込まれそうになりますが、この過程で題名の「熊」の話が出て来ます。ただ面白いことに、物理的、生物的な熊は出て来ません。しかしある村人の口を通じて、「熊」という存在を使って人々を怖れさせる奴がいて、そういう奴が利益を得ていることが観客に訴えかけられます。この「熊」の正体は何なのか?
冒頭にも触れたパナヒの背景からすれば、イラン政府以外に考えられない訳ですが、その辺りは明示されず、2組のカップルの顛末とともに物語はエンディングを迎えました。
劇中劇もドキュメンタリー仕立てであり、また監督が本人役で出演していることからも、本作そのものもドキュメンタリーに近い構成になっていて、非常に幻惑的で、魅力のある作品でした。政治的弾圧にも屈せず、抑圧され、閉鎖的なイラン社会の息苦しさが伝わってくる作品でしたが、熊ばりごついパナヒ監督の様子はどちらかと言うと軽やかで、常に冷静沈着。どんな危機的状況にも慌てず焦らない彼の姿は、観る者を勇気づけるものでした。
九州の話ではありません。
たまたま日本では息子さんの作品も観られるタイミングで、真打ち父の作品を鑑賞。
冒頭のパスポートの件のタネが明かされた時は、相撲の立ち会いでの猫騙し的で、驚きと共に一気に鑑賞スイッチon。これは効果的だった。イラン映画はなかなか凪の時間が長かったりするキラいがあるものの、油断してはいけないと座り直す。
パナヒ監督がリモートでディレクションする映画の撮影の話と、パナヒ監督が自ら国境近くの限界集落を定宿している村での話が、イレコで映画が進む。
映画に散りばめられた、彼の国への批判やパナヒ監督のメッセージなるものが散りばめられていて、とにかく気が抜けなく、会話の一つ一つに意味を帯びてるように思えた。特に、熊の下には、またしてもハッとさせられた。
追伸(邪心)
まさか息子とテーマが被るとは・・・。示し合わせたのかな?
初パナヒ。他のも見たい!
パナヒ監督作品初めて見て、軽くぶっ飛んだ。
本人が本人役で出てイランの田舎からリモートで監督してる映画俳優の出国トラブルと、隠遁先の田舎の村で監督が撮ったスナップ写真と古い風習に争う三角関係に巻き込まれて両面から監督自ら追い詰められる話です。
ドキュメント見たく感じるけどドキュメントじゃない感じが新しかった。普通こういう場合ハンディで撮った映像多用するんだけど、、、、文書で書くとわかりづらいけど、映画は場所が都会とど田舎に分かれてるんでごちゃごちゃになるストレスはない。フィクションだとわかって見てるつもりだけどイランの複雑な状況が監督目線で、いちいち説明がないのが怖い。トンズラしちゃった助監督とか、密輸特急便とか、国境のシーンがこわいよ。
クマが居るのか居ないのか?クマは何なのか?というより、私たちがどう判断するのかという問いのようにも感じた。モヤモヤしてパンフ買って見たけどそこはハッキリしなかったなぁ。
ただ最後に引いたサイドブレーキの音が、イラン政府に禁止されているにもかかわらず、映画を撮りまくっている監督の行動と意思のようにも思えた。
熊はいる
リモートのカメラマンが撮ったシーンとパナヒ氏を映すシーンが並行して話が進む。辺境の村は閉鎖的な雰囲気を感じず、のどかな風景で、村人たちも好意的である。
しかし、川で足を洗う儀式、婚約相手の決め方、宣誓室などや起源がわからない古くからあるしきたり、また辺境が故に警察が登場すると、パナヒ氏がだんだんと厄介者として扱われるようになってしまう。
ネットで調べたところ、実際イランにはツキノワグマが生息しているらしい(とはいえ農業でやっていけなくなったような辺境の村にはにいないだろうが)。しかし一言では言い表せない"なにか"に姿を変えて存在はしている。
余談ですが、パンフレットによると、ザラ役の女優ミナ・カバニさんはイラン政府に国外追放され、フランスに亡命、パリを拠点に活動中なのだそうだ。
イランの国境近くの小さな村に滞在中の、映画監督や助手の模様。 国外...
張り子の熊
ぎりぎりまで迫る。
2022年。ジャファル・パナヒ監督。トルコ国境に接するイランの小さな村に滞在する映画監督は国境の向こう側にいるクルーに指示を出しながら、亡命を目指すカップルを主役にしたドキュメンタリー的物語を撮影をしている。通信障害や偽造パスポートの入手問題で撮影がうまく進まないなか、監督自身が古い村の風習がからんだ恋愛トラブルに巻き込まれていく、という話。
映画監督役が監督自身であり、イラン当局によって映画製作禁止、出国禁止とされている監督自身の境遇についての知識を前提にした映画。密航業者の介入によって国境を越えられるところまで行きながら監督自身は国境を超えないし、パスポートは入手できそうでできないし、悲劇的な結末を遂げた死体はカメラに写らないし、村の恋愛トラブルも語られるだけで当事者の様子が直接映像として描かれるわけではない。ぎりぎりまで迫るが決定的な瞬間や決定的な場面は巧妙に避けられている。イラン映画には象徴主義とでもいうようなそのような傾向が共通しているような気がしていて、偶像崇拝の禁止と関係があるのだろうかと思ってしまう。すべてをあからさまには描かない美的な感性。
とはいえ、イラン映画一般とまとめることは到底できない高い水準の傑作。編集のリズムがすばらしいし、人間関係の機微に通じた切なく悲しい物語になっている。見なきゃ損。
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