「混迷と絶望。」熊は、いない 村山章さんの映画レビュー(感想・評価)
混迷と絶望。
クリックして本文を読む
パナヒが祖国イランを捨てることなく、国内に居続けながら、弾圧の中で映画を作り続けてきたことは偉業だし、本作も現実を反映した歪な寓話としてみごと。しかしパナヒがゲリラ的な手法で作り続けてきた近年の作品の中でも最もどん詰まりを感じた。
現実の厳しさ、辛さ、映画で世界は変えられない絶望、といった負の側面が本作のユーモアを凌駕して、途方もない圧迫感がのしかかってくる。映画作りが突破口にならないのなら、一体なぜこの映画を見ているのかとつい自問自答してしまうが、そもそも映画が答えをくれるなんて幻想が間違っているのであって、この映画が描く混迷はそのまま受け止めるべきなのだろう。パナヒが自国と自分と観客に突きつける刃は深くて鋭い。
この映画の後、パナヒは逮捕され収監され(この映画が直接的な原因ではないので日本の宣伝はミスリードだとは思うが)、ハンガーストライキを宣言した後に釈放された。パナヒを取り巻く状況は多少なりともいい方向に変わっているのかも知れないが、この映画が描いている閉塞感は解決してはいないだろう。同じ国境越えというモチーフを描いた息子パナーの『君は行く先を知らない』は興味深い良作だったが、父パナヒが描く多層的な底なしの閉塞感にはまだまだ太刀打ちできておらず、越えるにはあまりにも高い壁でしょうよと、こんな父を持ったパナーについ同情してしまった。
コメントする