「証言者がいかに勇敢なのかがよく分かる作品」アルゼンチン1985 歴史を変えた裁判 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
証言者がいかに勇敢なのかがよく分かる作品
アルゼンチンの軍事政権の支配が終わった後、その軍部の非道な悪行をどう裁いたのかを克明に描く実話ベースの法廷劇。その時代、不当に逮捕・監禁・拷問された被害者は3万人にもなると言われていたが、政権中枢には軍の息のかかった人間がまだ残っているし、当時の政権支持者も市民の中にはいる。主人公は全国民が注目する裁判の検事となり、証人集めに奔走する。
副検事は、軍政権に近しい家の出で、軍を裁くことは家族に背くことでもある。主人公の検事の華族には脅迫電話もかかってきて、危険な状況に陥りながらも、2人は若いスタッフの助力で多数の証人を集めることに成功する。
映画のハイライトは、当事者たちの証言シーンだ。妨害も脅迫もある中で勇気をもって証言する人々の勇敢さを最大限称えるように描いている。再現シーンはないが、むしろ言葉だけで語られる所業は、軍政権の非道さを想像させて余りある。クライマックスの最終論告のスピーチは、法の下の平等をたからかに訴える名スピーチだ。
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