イニシェリン島の精霊のレビュー・感想・評価
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人生に別れを告げる時
ゴツゴツした岩と灌木の島に点々と立つ無機質な住まいに、家畜と生きる人々の息抜きは、粗末な酒屋の一杯の酒と歌。
長年の親友に無言の絶縁を突き付けた彼。寄る年波を自覚すればいずれは別れる時が来る、その時を待つよりも、ヴァイオリン仲間の長老である今しかないと、全てに別れをつげる一歩として、友情を断ち切る決断に至った彼は、禍々しい行動に出る。外部から閉ざされた孤島の因習や伝説が絡んだアイルランド版楢山節考 。
人生は死に行くまでのヒマつぶし・・・
相容れない価値観の衝突
どうしてこんなに切なく悲しくなるんだろうと、何度も涙が溢れました。
退屈な日常を愛し、コルムと過ごす時間をもっとも大切にしていたパードリック。
人生の残り時間のすべてを音楽にかけると、自分の生き方を決意したコルム。
互いに嫌いになったわけではないし、慕いあっているとわかっていながら、彼らの価値観が両立することはありえません。
島の人々の楽しみといえば、パブで飲む酒と卑しい噂話。
島の人々は、パードリックとコルムがなぜ意固地になって互いに狂気じみた行動をとるのか、理解できないし理解しようともしません。
対岸の内戦を「何のために争っているんだか」というように、傍観者にとってはひまつぶしの話のタネでしかありません。
本作を観ていると、ふたりの決意や狂気的な執着に引き込まれながらも、時にふっと傍観者の視点に置かれるような感覚を味わいます。不思議。
レビューを拝見すると、観る人によって印象は様々のようです。
私は、パードリックは素朴で善良な人間だと受け止めました。
無学で面白みはなく退屈な人間かもしれませんが、卑しい話にはのらないし誰かを不当に扱ったりしません。
変わり者のドミニクがよく懐き、とっておきの密造酒を飲み交わすくらいです。
妹のシボーンが島の暮らしに飽き飽きしながらも、パードリックを一人にできず苦悩するくらいです。
きっとコルムもそんなパードリックを好んでいたのでしょう。
しかし、創造的に生きると決意したコルムにとって、パードリックに関わっていられる時間はなくなったのです。
疎遠になった友に鑑賞をすすめました。
ワンス・アポン・ア・タイム……的な
whiskey2杯ビール大量
アイルランドと言えばギネスではあるけど、基本はビールなんだな。話には聞いてたがちょっと意外。それとARAN諸島とARRAN島を混同してた。
細かい防風壁?が印象的な風景。木も育たない島でのんびりと暮らしてる。きれいな景色と文句なしの俳優陣で引き込まれる。
外界からの刺激は強いけど遠いから日々の暮らしにも刺激が欲しくなる、そんな話かな。人間関係は密なときも疎の時もそれなりにバランスはとれる。ただちょっとしたことで崩れる。国際関係も同じだけど、修復するのが正解なのか流れに任せて新たなバランスに持ち込むべきなのか。
ちょっと不快な夢を見てるような登場人物と話の流れ。生活感もあるような無いような。
野外でも陰の無い場面が多くフィルム時代なら陰鬱な絵になったんだろうけど。
明るい悪夢。
イニシェリン島の精霊
究極のギスギス映画
見て損はない映画です
なんともシュールな、二人の男のいさかいの成り行き…。
時は1920年代、アイルランドは独立戦争から内戦へと局面が転換していた、そんな最中。
アイルランド島の西側、ゴールウェイ湾に並ぶ3つの離島をアラン諸島というらしい。
その中の一番大きな島が主な ロケ地のようだが、イニシェリン島は存在しない架空の島だった。
島からは、海の向こうにアイルランド本島が見えるのだが、木更津から東京湾越しに見える川崎よりもはるかに近い。小豆島と高松くらいの距離だろうか。
島の人々は、海の向こうで鳴り響く砲弾音や、立ち上る煙で内戦の戦火が止まぬことを認識するのだが、文字どおりの「対岸の火事」といった体だ。
監督&脚本のマーティン・マクドナーは、アイルランド出身だと聞いた気がしたが、両親がアイルランド出身で、本人はロンドンで生まれ育ったらしい。
ただ、ルーツであるアイルランドの紛争には特別な思いがあるのだろう。両親はやはり離島の人だったようだ。
この映画の二人の男の仲違いが意味不明にエスカレートしていく様子は、独立戦争を終結させるための講和条約締結が着火点となったアイルランドの内戦を皮肉っているのだろうか。
それにしても、二人の男のいさかいは唐突だ。親友だと思っていた男から実は嫌われていたと知ったときのショックは、いかばかりだろう。
二人は20歳くらい離れているだろうか。
ロバを可愛がり、パブでビールを呑むくらいしか楽しみがない男パードリック(コリン・ファレル)と、ヴァイオリン(フィドル)を弾き作曲をする初老の男コルム(ブレンダン・グリーン)とでは、人生の密度が違うだろうことは想像できる。
人生の残り少ない時間をパードリックのつまらない話に付き合って消費したくないと言うコルム。
親友が自分を退屈な男だと思っていたと知り、島の人たち皆が自分をバカだと笑っているのではないかと、不安を感じ始めるパードリック。実際、この男は気が良い分思慮が浅い。
この映画は、よく考えれば声を出して笑ってもよいほど可笑しいユーモアに溢れている。
突然のコルムの絶縁宣言に、パードリックが理由を問いただした会話が秀逸だ。
「お前は、牛の糞の話を2時間も続けた、2時間もだ」
「牛じゃない、馬の糞だ。人の話をちゃんと聞け」
パードリックと二人で暮らしている聡明な妹シボーン(ケリー・コンドン)が、コルムがパードリックを退屈な男だと評したことに対して言い放つ。
「この島に退屈じゃない男なんているの?」
他にも随所に散りばめられているユーモアは、荒涼とした島の風景、小さな集落の人々の閉鎖的な暮らしぶり、対岸で勃発した同一民族の戦争の様子、などが作用して可笑しいのだけれど意味深に感じる。
パードリックはシボーンが言うようにナイスガイなのかもしれないが、パブの店主や常連客が彼のためにトラブルを仲裁しようとはしないあたり、人望があるとは思えない。
彼に寄り添ってくれるのは、少し知恵が遅れていそうな青年ドミニク(バリー・コーガン)だけだ。
このバリー・コーガンが見事な演技を見せる。是非とも、彼に助演男優賞を❗
ドミニクを虐待しているらしい警官である父親、雑貨店の女店主など、異様なキャラクターが登場すると物語の混沌は加速していく。
そして、二人の闘争は次第にバイオレンスの様相を呈していくのだ。
もはや、コルムの行動は残りの人生を充実させたい思いとは乖離している。
だがしかし、これはパードリックを主体に描いているから、コルムや他の登場人物たちが不可思議に見えるのだ…とは言えまいか。
パードリック自身が薄々感じたように、彼は島では好かれた人物ではなかったとしたら…
空気が読めないパードリックと頭が切れて生意気なシボーン。島の住民たちはこの兄妹と距離をおいていたのだとすると…
長年、毎日パブでビールを呑み交わす相手をしていたのはコルムだけだった。
コルムは自分の老い先を考えて、自分だけがパードリックに付き合っていることに嫌気が差したものの、簡単には見捨てられない。言って聞かせても理解する男ではないので、自らの身体を犠牲にしてまで空気を読めていないことを自覚させようとしたのだ。
コルムが時折見せるパードリックへの優しさは、鬼になりきれなかった証だろう。
パードリックは、島の厄介者ドミニクを唯一構ってやる善良な男だと自分では思ってるだろうが、実はパードリック自身、コルムだけが構ってくれていたのだ。
…そう考えると、このブラックユーモアには、俄然サスペンスとしての凄味を感じてくる。
結局、パブでパードリックの隣にいてくれたのはドミニクだけではないか。
不良警官のドミニクの父親は、島の連中に成り代わってパードリックを凝らしめていた。雑貨店の女店主は、他の住人たちとは違ってあからさまに態度に出していた…ということになる。
ドミニクは、頭が弱いようで自分のことを理解していた。
彼がシボーンに想いを伝えた後の悲しい末路は、彼自身が選んだのだと思う。
妹が島を去り、ドミニクにさえ背を向けられたパードリックは、愛するロバの死という決定打を浴びて暴走する。
それを受け止めたコルムが「これでお相子だ」と言う。
この物語の結末は見事なまでにシュールで、驚愕するほどにミステリアスだ。
「犬の面倒を、ありがとう」
「いや、またいつでも」
この二人は、この島の人たちは、この先どのように生きていくのだろうか…。
人は一人では生きていけないのか
あんたなら理解できるだろうが・・・
昨日まで仲良くしていた友人から、突然絶交宣言されてしまった男がどうにかしようと奮闘するが、事態は単なる仲違いにはとどまらない展開に発展していき・・・と言った物語。
2人の男の小さな喧嘩とアイルランド内戦のコントラスト、また、噂がすぐに広まる小さなコミュニティのめんどくささを、島の美しい情景が皮肉にも彩っていく。
大きな起伏は無くとも、島の人々は皆どこか奇妙で不気味。それでいていきなり笑いを放り込んできたり、観ていてまったく飽きがこない。懺悔室とパン屋の車のくだりには声をだして笑いそうになったw
色々と個々人の解釈に委ねられる場面はありますね。
あんたなら理解できると思うが・・・。退屈さを?それとも同じく志を持っていること!?
コルムの本当の想いは何なのか、ドミニクは何故ああなったのか、手招き婆さんあんたはいったい何者なのか・・・。手を振る奥に見える影は!?・・・やっぱりあんたなのか!?
まぁ、ハッキリとしているのは、シボーンの言う通り、この島の人は皆退屈(…と言うより偏屈)ばっかりなことくらいですかね。
ちょいと冷たくも見えるが、コルムの言い分もまぁ・・・ね。
例えばですが、正直ワタクシもこの歳になってきて、この人は貴重な休日を費やしてまで会いたい人か?これは参加したい飲み会か!?なんてことはよく考えるようになってしまったかな。
昔は休日に予定が入るだけで嬉しかったんですけどね。
皆さんにもこういうことはありますでしょうか?
それでも、音楽に費やしたいからと言ってるのに指を落とす矛盾だけはどうもなぁ。。
実はやめるきっかけが欲しかったとか?突き詰めた芸術家は凡人には到達しえない発想をしたりしますし・・・流石に違うかな。
また、改めて本作はとにかく深く考えさせられますね。優しさは記憶に残らない・・・ワタクシも優しいだけの自分が得をしたことなんてあったかなぁ・・・なんて回想しちゃったり(←自分で言うかッ‼)
さておき、ワタクシ自身も友人関係が色んな意味でリアルになっていく歳になり、本作は極端ではありますが、なんか心にズシンと響いてしまった作品だった。
でも、やっぱり心を許せる友人とはいつまでも一緒に過ごしたいよなぁ~とも思わされた。
友達諸君、どうかコルムにならないでね‼ワタクシも糞の話を2時間もしないようにしなくては‼
退屈という普遍的現象
息苦しい閉鎖的な村社会をよく表している。最近でも「都心部から来た人は都会風を吹かすな」と余計な発言をした地方自治体がありました。けどこれは家族や恋人、あらゆるコミュニティ(特に政治的空間)に当てはまる普遍的な出来事だと思います。
個人的感想としては島全体を包む不穏な空気が終始続き、正直退屈でした。途中で席を立つ人も居ましたし、エンドロールではその時を待っていたかのようにお客さんが次々と映画館を後にして行きました(要するにこの映画が示唆している現象が目の前で起こっていたということです)。
レビューを読んでると「劇中で起こることがわからない」っていう意見が目につきますが、逆に登場人物が想定内の動きばかり取る映画に魅力があるでしょうか?よくわからない行動がどのような意思表示なのか、それを想像するのが鑑賞の醍醐味ではないでしょうか?現実での生活はいつも想定内に収まっているでしょうか?
ロケーションの素晴らしさ(特に妹と別れる際の断崖絶壁のショット)には一見の価値有りですが、それ以外で強烈に感じるモノはなかったです。見て見ぬフリをして済ましてきた罪悪感を突きつけてくる映画より、自分の想像を超えてくる刺激的な映画と出会いたいです。
内面は醜く、外面は美しい
私は好きすごく沁みた
いいトシのおやじ二人の過激な意地の張り合い
なんだか分からないけどクセになる
大正時代のアイルランドの孤島のお話なので、どう考えても明るいとは思えませんでしたが予想通りでした。
精神分裂症の男に振り回された友人が自分も精神分裂症になってしまう、というのがまっとうな理解ですが、カッコつけた評価をすれば、孤島の閉鎖性、そこで生活する人の孤独、都会では通用しない非常識な島の慣習、正気と狂気の紙一重、みたいな雑多な要素が荒涼とした孤島の風土を背景に陰鬱に展開する、といったところですかね?
大体この作品を観ようなんていう人間はマニア寄りの人が多いだろうから、平均点は上げ底ですが、お話として何も収拾されないので、退屈と感じる方が正常です。
お話の展開よりもどんよりした映像感覚が好きな人にはウケるんでしょう。
しかし内容をブラックと捉えれば、コーエン選手なんかに演出させたら全然違う味わいになるでしょう。
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