「争いの道理を閉鎖的なコミュニティの中に巧みに描き出した、今語るべき、そして観るべき作品。」イニシェリン島の精霊 Y.タッカーさんの映画レビュー(感想・評価)
争いの道理を閉鎖的なコミュニティの中に巧みに描き出した、今語るべき、そして観るべき作品。
広大な大地と裏腹な離島という閉鎖的なコミュニティで、憎悪の境い目が曖昧になって行く様を、映画的な緊張を切らすことなく見せきったマクドナーの脚本の構成と的確な演出の手腕が素晴らしい。なにより、現実に世界が紛争に揺れるただ中でこのテーマを語った事に大きな意義がある。
ある日を境に信じて疑わなかった「日常」が、親友の突然の決別で崩壊していく男をコリン・ファレルが感情豊に演じれば、信念を貫く事に人生の意義を見つけた「親友」の男を、ブレンダン・グリーソンが達観した佇まいで存在感を放つ。この二人の動と静の駆け引きが見事にこの作品のサスペンスとなっていて、見応え十分。アイルランドの離島の広大な、しかしどんよりとした環境が、更にその緊張感を増幅させていている。その緊張感に別儀を持たしたケリー・コンドンとバリーコーガンの的確なキャラクター造形も助演として効果的で、一つ一つのピースが理想的なバランスで存在している。
閉鎖的なコミュニティの中に争いの道理を描き出すマクドナーお得意のテーマで、まさに今語るべき、今見るべきという感じ。
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