劇場公開日 2023年1月27日

「自分(の時間)を守る為、人間関係をリセットする覚悟。」イニシェリン島の精霊 アルさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5自分(の時間)を守る為、人間関係をリセットする覚悟。

2023年2月9日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

友人と過ごす"くだらない時間"、"無駄話"。自分の人生にとってどれだけ有意義で有用か、と問われると言葉に詰まる。

人の時間は有限で平等にあるからこそ、お互いの時間を共有する事に意味があると思う。皆その時間を楽しく共有しながら過ごそうとするのだが、ふとした"きっかけ"で"何か"に気付く。

『このままではいけない』と。

くだらない話をしながらゲーセンに通うだけの友人に、私はふと『毎日一緒に何してるんだろう』と思い、結果としてその友人との関係をリセットした過去がある。
今となっては後悔に近い感情もあったりと、何とも言えない経験になってしまった。

馬鹿話が楽しい思い出になる事もあるし、若い頃はそれでも良い。だが歳を重ねるにつれ、時間の使い方は変化するはず。生きている間に自分の人生に何を見出すか。

対岸の本土で起きている内戦と、イニシェリン島で起きている諍い。大小あれど、考え方の違いで同じ人間が争っている。

穏やかで心地良い音楽が流れるイニシェリン島で、その両者の葛藤がズシンと心と胸に響く。

実直で優しく、ユーモアある楽しい友人か。
愚かで深く考えない、くだらない友人か。
頑固で理解出来ない、年老いた友人か。
趣味を持ち、自分の人生を楽しむ友人か。

鑑賞者の人生に"無駄な時間"と"諍い(いさかい)"を問いかける、考えさせられる作品。コリン・ファレルの眉が心の機微と言い表し難い心情を絶妙に表す。答えは無い、スッキリもしない、重いラスト。だからこそ傑作。

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アル