「良き変態」イニシェリン島の精霊 ブレミンさんの映画レビュー(感想・評価)
良き変態
アカデミー賞ノミネート作品が徐々に公開されるシーズンに突入し、その中で先陣を切ったのが今作。正直、男同士の友情のもつれだけで映画になるのか?という疑問が強くありましたが、そんなものを一蹴してくれる快作でした。
最初におそらく仲の良かった男性2人が、理由もなく友達を辞めるという衝撃の宣言からスタートしますが、コリムはパードリックの退屈な会話よりも、思考や音楽に時間を費やしていきたいという頑固な考えではありますが、筋の通っているものでなるほどな頷けるもので、それに対するパードリックは信じきれずにコリムに付き纏うシーンが散見されます。
やがてコリムが話しかけるたびに指を切り落とすという残虐な行為を口走るまでになりますが、それでも関係を修復したいパードリックはまだまだ付き纏いますが、ついにコリムが指を切断して…というテンポがゆったりの筈なのに急展開を続ける悍ましさがありました。実際に自分がこの状況に陥ったら指を切り落とされるまでいかないと納得できないと思います。真相心理をしっかり突いてきました。
最終的には指を全部切り落とし、その指を誤飲してしまったロバのジェーンが死に、そこへの怒りが湧いたパードリックがコリムの家に火をつけるという復讐劇で終わりへ向かいますが、おあいこにはならず、互いが互いで違う道へと向かうラストに行き着きます。結局、二人の仲は戻る事なく、失ったものばかりという見方的には悲しい終わりになってしまいました。そうはならないでくれ…という終わり方になってしまいましたが、物語の終わりとしては綺麗にまとまっていたと思います。
登場人物がどこか不穏なのもこの作品の魅力的な部分です。ドミニクが妙に腹の立つ行動をしますし、ドミニクのお父さんも暴力ばかりなのも嫌ーな気分になりますし、店先の婆さんも悪態つきまくりですし、とにかくパードリックを引き立てるためか、周りの奴らがヤバめに設定させられているのも良かったです。
コリン・ファレルの表情が素晴らしくて、困り眉のおかげか良い人感が常に出ており、そこから繰り出される行動の数々がもどかしくも思えてきます。動物たちの表情も素晴らしく、ジェーンも馬も犬もどの子達も愛らしいです。
映画は観るまで分からないと言いますが、これは一本取られました。変態の極みで、突き抜けたものになれば清々しい事この上なかったです。感無量です。
鑑賞日 1/29
鑑賞時間 10:00〜12:05
座席 M-12