「コリン・ファレルのハの字になった眉毛はある日突然ワケのわからん理由で不条理に戦争の渦中に放り込まれては日常をブチ壊された人たちの困惑と悲痛な叫びだ!」イニシェリン島の精霊 とぽとぽさんの映画レビュー(感想・評価)
コリン・ファレルのハの字になった眉毛はある日突然ワケのわからん理由で不条理に戦争の渦中に放り込まれては日常をブチ壊された人たちの困惑と悲痛な叫びだ!
ある日突然、日常をブチ壊す親友の豹変!本土の戦争も他人事じゃない。寓話的な歴史ドラマとして描くことで少しファンタジックな雰囲気も帯びながら、ロシアのウクライナへの支離滅裂な口実による戦争然り、内実は何よりもリアル。
"退屈"しかない島で、人の死を予告する精霊="死神"の声に耳を傾けてしまった人間たちの愚かな末路は、世界の惨状に他ならない。そこに暮らし、そこでの生活が全てな人にとって、そこでの"退屈"を否定することなどできない。いくらヤバくなった、居づらくなったからといって、やすやすと他の場所に移れるわけなどない。それを一方的な口実や約束を押しつけては危険に晒す者がいる。戦争の理由なんて元を辿ればそんなものだろう、それもまた暴力に違いない。
バリー・コーガン演じるドミニクは島中からバカにされ、喰い物にされる純粋さの象徴のように響いた被害者。作中その時々のネタや口実、何気ないセリフなのかもしれないが、明らかに蔑みを含んだ同性愛や鬱、"バカ"という価値観。…と同時に、もしかするとコリン・ファレル演じる主人公パードリックも、コルムもドミニクも行くとこまで行けば死ぬかもしれないのに、パードリック本人はその状況をどうにかしようと必死に動いた結果であって故意ではないにしろ、そうした方向へ追いやったとも取れなくないわけで、そう考えると彼の言動にも火に油を注ぐような"精霊"らしさを見出だせないわけではないやも。そして決別。
マーティン・マクドナー × コリン・ファレル × ブレンダン・グリーソン =『ヒットマンズ・レクイエム』チーム!!
そんな鉄板主演コンビに加えて、個人的に大好きなバリー・コーガン君。三者三様、素晴らしい演技と存在感だった。"いいやつ(nice/good guy)"と"考える人(thinker)"は「&」から「VS」へ?! …これはマーティン・マクドナー印のブラックコメディにおいて"ブラック"が(圧倒的に)勝る瞬間だった。もしこれを"コメディ"とするのであれば、それはこの精霊たちのように人の愚行と死を見て楽しむ神の視座に立つようなものかもしれないとすら思う。
例えば前作『スリー・ビルボード』では最後には比較的分かりやすく静かに沁み入るような映画的カタルシスがあった。それに対して本作は、あの後に2人が復讐に行ったようなもので、良くも悪くもあらすじや予告から分かる情報のまま最後までゆっくりと進んでは、ただただ辛く寂しく苦しい味わい、余韻だけを静かに残していく…。この「う〜ん」という感じは、前作やそれまでのフィルモグラフィー以上に見る人を選ぶ作品だと思うけど、同時に彼の作品を初期から見ていた者としては彼でしかないと痛感する。