「骨の髄まで僕を愛して」ボーンズ アンド オール 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
骨の髄まで僕を愛して
平凡な18歳の少女、マレン。
父親と二人暮らし。引っ越しが多く、この地も引っ越して来たばかり。
友達も居なかったが、親しくなった同世代の女子らに誘われ、父親に内緒でこっそり家を抜け出し、お泊まりへ。
楽しい時間も束の間、マレンが信じられない行動をする。
自分でも分からぬ衝動に駆られ、一人の少女の指に食らい付いたのだ…!
事情を知った父親はマレンを連れてすぐさま引っ越し。
一体、自分は何者…?
やがて父親にも捨てられ、残された出生証明書やカセットテープから初めて知る。
マレンは幼い頃から人食の嗜好があった…!
“カニバリズム”を題材にした衝撃作。
ホラー映画ではたまにある題材だが、本作もホラーテイストでありつつ、異色作。
父親に捨てられ(娘を育てるのに失敗したと自責の念から)、存在を知った母親を探す旅に出る。
一人の少女のアイデンティティーや彷徨を描いたロードムービー仕立て。
行く先々で出会ったのは…
ある町で声を掛けてきた一人の初老の男、サリー。
彼も人食者。初めて出会った自分以外の自分と同じ人。
人食者は普通の人や同族も食らう事あるが、自分は同族は食しないという。
マレンに同族の匂いや他にも同族がいる事、血の匂いなどを教える。
招かれた屋敷で瀕死の老婆を食らうサリー。
生きている人を食らう事に抵抗を感じるマレン。絶命してからはその衝動を抑えられず…。
食べた相手の髪の毛をコレクションしているサリー。
その異様さや不気味さに不快感を感じ、マレンは去る。
そんなマレンを見つめるサリー…。
また別の町。スーパーで店員の目を見計らって万引き中、横柄な態度の男の相手をする一人の青年。
スーパーから出た人目に付かぬ所へ。やがてその青年は口や身体中に血が。
この時マレンは“匂い”で分かった。彼も人食者。リーと名乗る。
彼と共に行動。
自分に近しい世代。彼も何処か自分と同じく、孤独や彷徨を感じる。
そんな二人の間に芽生え始めていく感情…。
この二人の出会いが本作の主軸と言っていい。
カニバリズム・ホラー×ロードムービーに、同じ秘密を抱える若い男女のラブストーリー。
ルカ・グァダニーノ監督とティモシー・シャラメの『君の名前で僕を呼んで』タッグが、まさかカニバリズム題材の作品を撮るとは…!
確かに際どい題材でグロい描写もあるが、それ見世物のゲテモノホラーなどは撮らない。(それが見たかった人には期待外れだろうが)
あの繊細な作品を手掛けた二人だけあって、本作も若者の葛藤や内面を瑞々しく描き取る。
そして今回も一筋縄ではいかない愛の物語。
美しい映像やセンスのいい楽曲も。
意外過ぎる題材ではなく、ちゃんとこのタッグならではの作風。通じる点もあり。
所々退屈や冗長も感じ、題材やグロ描写から好き嫌いは分かれそう。
多くの方はティモシーくん目当てだろう。またまた難しい役所を、色気や魅力、儚さや実力たっぷりに魅せる。
実質主役は、マレン。孤独や苦悩、複雑な内面…。リーに心惹かれる一人の少女として。己の運命と相対する。
これまた難しい役所を、注目株テイラー・ラッセルが熱演。大躍進。
若い二人の難演もさることながら、マーク・ライランスが不穏さと圧倒的存在感の怪演。出番は序盤だけではなく、終盤でも印象放つ。
道中、またまた人食者と出会う。サリーの言葉ではないが、同族は多くはないが思っている以上にいる。
その青年ジェイクから人食の中でも“フルボーンズ”の存在を聞かされる。人肉だけではなく、骨の髄まで食べ尽くす事。
人食に中毒なりつつあるリーにその傾向あると危惧。
旅の目的であるマレンの母親の元へ。そこは施設で、母親も人食者だった。自分で自分の腕を食らい、気も触れ、娘さえも食らおうとする。
ショックを受けるマレン。リーと思わず口論。
リーも家族との関係でぎくしゃく。
すれ違いから別れる。
リーは父親や妹と改めて対し…。
マレンもまた一人に。
その後再会。普通の人々と同様穏やかに暮らそうと始めた時、マレンの前にサリーが現れ…。
ずっとマレンを追っていたサリー。孤独だった自分に安らぎを与えてくれたマレンに横恋慕し、異様に執着。
襲い掛かられ、そこをリーが助けに入り、サリーを殺すも、リーも重傷を負う。
あまりにも深手。助かる見込みも薄い。
意識が遠退く中、リーは言う。
僕を食べて。骨の髄まで。愛しているなら。
一般の思考や常識では分かり得ない。
でももし、我々の常識を越える存在があるとしたら…?
我々の思考や常識では計り知れない形もあるかもしれない。
食らう。骨の髄まで。
それによって、君とずっと一緒。永遠に。
究極極限の愛の形。
これは狂愛か、激愛か、純愛か…?
彼の想いを受け止め、彼を我が身へ。
マレンのその後に思いを馳せられる…。