「5回観た」TAR ター キッチンナベさんの映画レビュー(感想・評価)
5回観た
「TAR」に魅入られ、5回も観てしまいました。
繰り返し観て、あっ、そういうことかと納得した箇所、何回観ても心を動かされるシーンをいくつか。
●赤のボールペン
副指揮者のセバスチャンを“急襲”したTAR。TARがデスクから素早くポケットに入れたのはセバスチャンがいつもカチャカチャやってTARをいらつかせていた赤のボールペン。自分のペースを乱す“リズム”を何よりも忌み嫌う彼女は、先んじてボールペンを奪うことにより、自身のペースでセバスチャンを退任に追い込むことにまんまと成功したのでした。
●クリスタの幽霊
冒頭から赤毛の後頭部が映っていたクリスタ。その後もストーカーのようにTARにまとわりついていましたが、TARの自宅にも居ましたよね!時系列的にはたぶん既に自死したあと。ということは…。
あの幾度も出てくる模様を、メトロノームに描いたりペトラの部屋の粘土で造ったりしたのもきっとクリスタなのでしょう。
夜中に「リディア!」と叫び、TARにしがみついて何かに怯えるペトラ。彼女にはクリスタが見えていた?
●指揮するTAR
自宅のピアノでマーラーを弾くシーンからいきなりリハの現場に突入。流暢なドイツ語や身振り手振りでオケに指示したり、コーヒーブレイクしたり、いろんな動きがとにかくカッコイイ。TARが指揮するところだけ何時間でも観ていたい。
●№5
アジアの某国に流れ着いたTAR。気持ちも新たに音楽に向き合います。「時差ボケがひどくて」
とホテルのフロント?に相談したところ、紹介されたのは風俗っぽいお店。“水槽”の中にまるでオーケストラのように配置され、俯いている女性たちの中から指名するよう促され戸惑うTARに、ひとり目を見開き射るような視線を向けた女性の胸には№5と書かれたプレートが。たまらず店を飛び出し、通りで嘔吐するTAR。
権力の座から引きずり降ろされ、ニューヨーク郊外の実家?に戻り、レニーのビデオを観ながら涙していたあたりから、TARの気持ちは変化し始めていたんだろうけど、№5(=道半ばで挫折した交響曲第5番)に眼差しを向けられ、自分が犯してきた数々の醜悪な罪に初めて気付いた瞬間でした。ここは何度観ても泣けます。
●再生
指揮台からオーケストラの子どもたちに、作曲者の意図について考えてみましょうと語りかけるTAR。きっと自分の姿を恩師レニーに重ねているはず。
そしてラストのコンサートシーン。これから旅に出発するぞ、覚悟はいいかといった意味のナレーションが流れ、モンハンの正装をした観客に見守られる中、TARは再生に向けて新たな一歩を踏み出しました。泣ける。