「苦しくなる」TAR ター 吉泉知彦さんの映画レビュー(感想・評価)
苦しくなる
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裁判、恋人との関係、アシスタントの不在、副指揮者との断絶、スキャンダルなどいろいろな負を背負ったまま最後の演奏に挑むと思ったら転んでメンバーを殴って終わる。あれだけ練習したのにそれだけか。鬼気迫る、それこそ火が出るようなとんでもない演奏が見れると思ってわくわくしていたら肩透かしだ。そんなつらい目にあっても人生は続くし、しかし身から出た錆でもある。
ターが実家に戻ってVHSで見た指揮者の言葉が心にしみる。
テーマ性や表現はすごいのだけど、全体的にお高い感じは全く好みではない。しかし、お高い世界だからこその高みが存在する。
現実世界でも過去の女性に対する行為でピカソの絵が値下がりしているという。創作や芸術や表現が、決して民主主義でも正義でもないことは当然なのだけど、それを是としない人々がいる。SNSのロボットと言われた人々が是とする、コンプライアンスでOKな表現や作品と、魂の自由を信じる人々が求める創作に、この世界はぱっくり別れるのではないだろうか。もうそうした動きは始まっているようだ。
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