「重厚感ある画と静謐で不穏な空気感」TAR ター TOKIESさんの映画レビュー(感想・評価)
重厚感ある画と静謐で不穏な空気感
女性指揮者の栄光と心の闇を描き出すサイコスリラーともいうべき作品。
ケイト演じるターは、アメリカの5大オーストラで指揮者を務めた後、女性として初めて名門ベルリン・フィルの首席指揮者に就任するという輝かしい経歴の持ち主。
劇中はマーラーの交響曲第5番のライブ録音に取り掛かる様子が描かれる。録音として出ていないのは、交響曲全曲中5番だけで、これが録音されればマーラー交響曲全集としてアルバムが出され、自伝的書籍も発売されるという、まさに黄金期のピークともいえる姿が映し出されるのだ。
冒頭からターのインタビューや大学の講義の長尺のシーンがあり、単調に感じるが、中盤での家庭や職場での不協和音、クリスタという謎多き女性側から告訴されるあたりから、それぞれの要素が呼応するように、栄光が崩れ始めていく。
全体的にはダークで陰鬱な印象。幻聴のシーンはどれもサイコホラーテイストで、緊迫感を上手く演出している。色彩も絞り、画に重厚感を持たせたり、特徴的・独創的なカットも数多くあるので、一定の緊張感を保つことに成功している。
ターの栄枯盛衰のターニングポイントが描かれる本作は、光も強ければ闇も強く現れるということを知らせてくれているようだ。
個人的にターの立ち振る舞いよりも、多様性を主張する無知蒙昧で傲慢で身勝手な若者たちの態度に終始辟易した。
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