劇場公開日 2023年5月12日

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「ART?!」TAR ター かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ART?!

2023年5月13日
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誰か書くだろうって黙って見ていたら誰も書きゃしないじゃない、TARがARTのアナグラムだって。私やトッドの最後の映画になるかもしれないってあれほど大風呂敷広げたのに、どうも興行の方はパッとしないみたいね。やっぱりトッドの勘はあたってたわ。たとえ大物俳優(もちろん私のことよ)に渾身の演技をさせたところで、アート作品じゃ客を呼べないって、時代は変わったのね。ウォシャウスキーが『レザレクションズ』で映画とリアル(ネット動画)の共存をうたい、カラックスが“MOTAL”致死状態の映画を嘆き、リドリー・スコットがミレニアル世代の映画離れを罵倒し、ジョーダン・ピールがブロック・バスターの終焉を予言したように、トッド・フィールドは本作のような芸術映画がもはや時代遅れだってことにちゃんと気がついていたのね。だから映画の中にジャンル系(オカルト)のトッピングを混ぜてあったんだ。あんたたち大好きでしょ、そういうの?じゃあ映画についての映画ってこと、って当たり前じゃない、あんたたちどこ見てんのよ。聞く人がいないとうまく歌えないって私が冒頭教えてあげたでしょ。見る人がいないとうまく演技できない、つまり、ケイト・ブランシェットがケイト・ブランシェットを演じた映画でもあるのよこの映画、わっかるかなぁ、わっかんねぇだろうなぁ。私が演じたターよりも、それを動画に撮っているのは誰かってことで、あんたたち盛り上っていたらしいじゃない。まるでターが実在しているかのようなごっこをしてネットで遊んでたって噂よ。私とトッドが心配してたことまんましでかしてどうすんのよ。本チャンのライブ(映画)よりも、指揮者(役者)本人のスキャンダルの方を見る人がずっと多い、っていう本末転倒現象のことを言ってるの。キャンセル・カルチャー云々はどちらかというとその副産物ね。アケルマンへのオマージュショット※だって“映画についての映画”であることのちゃんとヒントになってるでしょ、気がついてよったく。フィリピンの滝のシーンで、案内係のバカップルがリディアのことそっちのけで遊び呆けてたでしょ、(滝の)スクリーンの中の私をひとりぼっちにして。水槽の中の風俗嬢だってみんな目をふせていたじゃない。そんな誰も見ない芸術映画を自己満足でつくったって意味がないってこと。たとえ系統は違っても若い人たちがノリノリで見てくれるエンディングのような、どんな形でも映画が生き残る道を考えるべき時代に突入してる、ってことを言いたかったのに、ったく。

※この映画実は過去の名作へのオマージュらしきシーンを、他にもたくさん発見できそうな作品です。気がついた部分だけ列挙しますが、おそらくこれだけではないでしょう。

・常時精神安定剤を服用し、饒舌かつ神経質、#me-tooでパージされたコンダクターは、トッド・フィールドが映画のイロハを教わったというウディ・アレンがモデルなのかもしれません。

・一連のボクシング練習シーンとカプランぶん殴りにいくシーン→ロッキー

・チェリストを追って廃墟でリディアが迷子になるシーン→ベニスに死す or ストーカー

・リディアが口から煙を吐く幻覚シーン→地獄の黙示録

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かなり悪いオヤジ