劇場公開日 2023年5月12日

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「理性と感性と」TAR ター ストレンジラヴ氏さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5理性と感性と

2023年5月13日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:映画館

怖い

知的

難しい

「指揮者の故郷は演奏台」

カッコつけます。これは現代の「8 1/2」であり、「地獄の黙示録」です。
正直に言います、よく分かりません。
理解したければここまで登りつめて来いという、そういう作品です。
そして何より、徹頭徹尾マイノリティに配慮した(或いはせざるを得なかった)作品に映りました。
冒険しているのに堅牢、僕はあまりスマートフォンやタブレット端末が登場する作品は、(サイバーものでもない限り)作品の奥行きが損なわれる気がして好かないのですが、ここでは全く雰囲気を損ねていないのは見事。
そしてケイト・ブランシェットの多彩ぶりに驚くばかり。ピアノは弾く、ドイツ語はペラペラ話す、エンドロールを観たら「指揮:ケイト・ブランシェット」表記の多いこと多いこと。おっと、「多彩」という言葉は現代においては否定的な表現でしたね、専門性がないと生きていけない。
私事ですが、最近ベルリンを舞台にした海外ドラマにハマっておりまして、本作の主な舞台もベルリンということで、華やかなりしも陰を漂わせるのはベルリンならでは。作業場にフォルカー・ブルッフやリヴ=リサ・フリースが突然現れるのではないかとドキドキしました。
ただ、マーラーの交響曲第五番第四楽章"アダージェット"はやや軽かったかな?あれではダーク・ボガードが未練タラタラになってしまう(劇中リハーサルでもヴィスコンティに触れていましたね)。

人生を安全に生き抜くには徹底的に感情を排除しなければならないが、人間そうはいかない。いわんや芸術家をや。本作で取り上げられた問題はあくまでも氷山の一角で、恐らく至る所で起こっていたのではないかと推察します。

ストレンジラヴ