「権力者は賞賛も嫉妬も誹謗中傷も「都落ち」も全て受け入れる覚悟を」TAR ター talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
権力者は賞賛も嫉妬も誹謗中傷も「都落ち」も全て受け入れる覚悟を
音が苦手で、雑音も騒音も時計のカチカチ音もダメだ。夜の工事音やアイドリングやお喋りが我慢ならないレベルに達すると110番してしまう。ラジオやテレビはめったにつけない。音楽を聞きながら歩くことも仕事をすることもない。皿洗いや料理やダンスなど自分も盛大に音と共に動く時だけ音楽を流す。
だからこの映画の不穏な音はとても怖かった。一度気になったら正体が分かって完全に止めるまで安心できない。でも背筋が痺れて鳥肌がたつ感動もあった。前半のTarの指揮によるオケの音だ。この映画の音響は本当に素晴らしい。映像も。
権力の最高峰にいるTar、歩き方も指揮する姿もインタビューに滔々と答える様子もケイト・ブランシェットにしかできない。リハーサルでのオケメンバーへの指示にも魅入られた。英語である必要性、ドイツ語である必要性に説得力があり、強くて適切な緊張感のあるドイツ語をマスターしていた。
Tarをフィクションの女設定にしたことで、過去の、今の、リアルだった(過去形にしていいのかわからない)男性中心の権力構造が裏返しに透けて見えた。おぞましくホモソーシャルで限りなく傲慢で極端な身贔屓。のし上がるための情報源確保、自分の地位を脅かしかねない者や気にくわない者は丁重に結果的には蹴落とす。自分にとって愛らしく能力ある若い存在はペットのように側に置き鼻についてきたら捨てる。権力トップに座すれば性別関係なく起こる。それほど権力は強烈で甘くて毒がある。その毒は権力者自身にもまわる。
「ブルー・ジャスミン」と通底するが、TARは見てからの疲労感が凄まじかった。
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でもトッド・フィールド監督はブルー・ジャスミンの監督とは異なる。Tarの「都落ち」の先にはピラミッドの無い、みんなが楽しいホモ・ルーデンスの世界が待っていた。Tarは子どもの頃の夢に戻って自由な時空を思い出し回復する。二回目鑑賞してTarの思考と感情に少しだけ近づけたように思う。
迫りくる老い(すっころんで顔に大怪我)、死(隣人の母親の死)、絶望(女性若手指揮者の自死に始まる自分の転落)を苦しく味わい腹から身に沁みて、Tarは再生し希望への一歩を踏み出す。Tarはヴィスコンティの主人公のように「ベニスに死す」ことなく、音楽以外は潔く捨て「アジアに生きる」。(2023.5.15.)
おまけ
マーク・ストロング、髪の毛があったので本人だとわからなかったー!大好きだから残念だった(再度鑑賞で確認できました!)。
些細な事に目くじらを立てていると、肝心な時に怒れなくなっちゃいそうですよね。
怒りのボルテージを溜めに溜めておいて、本当に許されない奴に対してその怒りをぶつける!…というのを理想にしてやっていきたいと思っております🙇
talismanさん、コメントありがとうございます♪
近年益々盛んなキャンセル・カルチャーですが、どこまでがセーフでどこからがアウトなのか線引きが難しいですよね…。権力者の性加害を暴き更なる被害を出さない制御装置になる一方、不倫や失言などそこまで叩かなくて良い事にも過剰に反応してしまったり…。
SNSの使い方を、もっと1人1人が考えないといけないですよね。
talismanさんお返事ありがとうございました😊
人が作り、人が歌い、人が演じたものにグラミー賞を与えたいという表明はナイスです。
talismanさんはバレエの舞台や演劇を、じかに観に行くのがお好きですもんね♥️
僕も時々たまらなくくたびれた時は、演目に関わらず下北沢の小劇場に駆け込んだりしています。
「人間が見たい」
「一生懸命な人間の身体が見たい」
「躍動と汗が見たい」、
ただその一心で。
talismanまで
怖がらせてしまってゴメンナサイ😁(笑)
でもものすごくタイムリーな、時宜を得た作品だったと思うのです。
「匿名の文字」が、スマホやパソコンの画面から、人が死ぬまで寄ってたかって攻め続けるなんて、誰がむかし想像したことでしょうか⁉️
誰かを苦しませて、世論を炎上させるほどそれが発信元の収入になったりするとか、あって良いことだろうか⁉️
人間の心に潜んでいた、抑えておくべき弱さや狡猾さ、悪いものが噴出しているんです。
でもこの映画がそれでも何とか気品を保っていたのは、凛とした音楽と、首席指揮者の生き様の輝きと、毅然としたTAR佇まいのお陰だと思いました。
きりん
コメントそして共感ありがとうございます。
はい、リハーサルシーンは音が良くて、生オーケストラより
良いくらいですね。
taliismanさんのレビュー、とても詳しく鋭くて内容が
飲み込めました。
Tarは辺境であれ何処であれ指揮していれば最高に幸せなのでしょうね。
私もどうしても観たくて購入しましたので、時々何回も見なおそうと思います。
ケイト・ブランシェット自身も、映画界に頂点に立つ素晴らしい女優であるために、このTarという人物を受け止めることが出来たように思えました。ホント、なんでアカデミー取れなかったんでしょう笑
それと、
>すっころんで顔に大怪我
ですよね。え?映ってなかったけど、あの後に殴られたのか?と思ってました。
包帯するわけでもなく、潔いというか、セルフプロデュース?いやある意味、天然もあって、人々に愛され利用もされ、あそこまで登り詰めたのか、、、
コメントありがとうございます♪
英語とドイツ語のも、音の響きとして楽しめました。そっかー、意味まで分かっていたら、もっとですね。音楽の表現記号のくらいしか私には分からず💦
ですです!ターは再生する。やはり音楽に救われる明るさを、最後に感じられて良かったです。
カラヤンなんて、帝王とまで言われてた時代もありました。
そうですよね♪
ほんと、そう思います。
欧米でも「東洋的思想」と「日本のテクノロジー」「日本のサブカルチャー」が好きでアジアをとても高く評価してくれる人達がいますよね。
監督はもしかしたら、世界中の人達のもっと大勢がモンハンを知っていると思っているかもしれませんね。現在58歳ですからテレビゲーム創世記からのゲーム好きなのかも?(笑)