劇場公開日 2023年5月12日

  • 予告編を見る

「現代映画技術の最前線。内容には賛否あり。」TAR ター comeyさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5現代映画技術の最前線。内容には賛否あり。

2023年2月21日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

若くしてベルリン交響楽団で女性初の常任指揮者となったリディア・ターは、かつてレナード・バーンスタインがその天才を認めた愛弟子だった。これまでわずかな者しか獲得していない「EGOT(エミー賞、グラミー賞、オスカー、トニー賞をすべて受賞)」の1人でもある。ドイツとアメリカをプライベートジェットで往復する富裕な暮らしを続けていて、女性音楽家と同棲するレズビアンで、移民の養子を育てている。

目につくものすべてが思うとおりにならないと気が済まない傲慢な性格だったが、世界屈指の成功した音楽家として望むものすべてを手にしていた。しかしあるとき若手音楽家を対象に開かれた公開レッスンを境に、彼女の運命が変わり始める。

文句なく今の映画の最前線をゆく撮影技術。とくに照明とサウンドデザインが秀逸。大物指揮者の日常を細かく追ったり、『ニューヨーカー』誌の名物編集者が本人役で出てきたり、いまの欧米富裕層の生活をかいまみる面白さもある。ケイト・ブランシェットは、高慢で成功した天才指揮者を巧みに演じていて、ことしのオスカー主演女優賞は、問題なく彼女のもとへ行くのでは。

しかし多様性を求めるいまの風潮を「キャンセル・カルチャー」と揶揄する風な物語には欧米でも厳しい批判が出ていて、中身には賛否が別れている。

個人的な好みとしていえば、『別れる決心』と並んで今年度の映画技術の最高峰を示す作品だとは思うけども、とくに積極的に推す気持にはなれなかった。

ところでこの指揮者の名前は「Lydia Tár」。この名前をみて英米の映画好きが連想する、あのハンガリーの映画監督の名前のように「タール」という邦題にするべきだったね。「ター」って柔道の掛け声みたいで変だよ。

コメントする
milou