「【”仏蘭西の中に厳然として有る意図せぬ黒人差別を描いた作品。そして、母と娘の本質的な関係性を描いた静的な法廷劇をメインにした作品でもある。そして、そこから見えてくる現実を考えさせられる。”】」サントメール ある被告 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”仏蘭西の中に厳然として有る意図せぬ黒人差別を描いた作品。そして、母と娘の本質的な関係性を描いた静的な法廷劇をメインにした作品でもある。そして、そこから見えてくる現実を考えさせられる。”】
ー 印象的なのは、今作の法廷に登場する人物は、生後15か月の娘の殺人罪に問われた若き女性ロランスと、彼女の母。そして、女性作家ラマ以外は、裁判長、弁護人、検察官や聴衆を含めて全て白人であることである。
これは、アリス・ディオップ監督による意図的なキャスティングであると思う。
更に、資料によるとアリス・ディオップ監督の母親が、事件を新聞で知り、サントメールで開かれた裁判を傍聴した際に、白人たちから背を向けられた経験も取り入れているそうである。ー
◆感想
・裁判シーンが8割を占めるが、ロランスを含めた証言者たちの証言内容がコロコロ変わる事に、やや戸惑う。
・ロランスは、殺害理由を問われ
”娘を海岸に置いた。けれど、私に責任があるとは思えない”と言い放つし、ロランスの夫の歳の離れた初老の”白人男性リュック”は”娘が出来て嬉しかった。”と言うが、ロランスは”彼は、大切な場にも私を連れて行かず、紹介もしなかった。”と述べる。
ー 推論だが、ロランスの夫リュックは、ロランスを内縁の妻として扱っていたのではないかと思う。故に、世間体を考え、親類に正式に結婚したと紹介をせず、娘が生まれた時も”本当に私の子か?”などと狼狽して言ってしまったのではないか。-
■仏蘭西の中に有る意図せぬ黒人差別
・いろいろなシーンで感じられるが、一番分かり易かったのは、ロランスがセネガルから希望を持ってやってきたのは、ウィトゲンシュタインの哲学を学ぶためであった。
だが、ある女性大学教授は笑いながら
”セネガルから哲学を学びにやってきた?あり得ないでしょ。”
と証言台で宣うのである。極、自然に・・。
ー これも、推論だがロランスは仏蘭西に来てから、あらゆる文化の壁、黒人差別を経験し、更に望まぬ妊娠をし、全てに絶望していたのだろうと思う。
セネガルからの仕送りも途絶えて・・。
故に、女性弁護人が彼女に掛けた言葉を聞いて、法廷で初めて泣き崩れたのであろう。-
・証言者の中には”フランス人化が成功の鍵。彼女のフランス語の発音は完璧だが、筆記が未熟”と答える女性もいる位である。
・今作では、女性作家ラマとロランスの母親との関係性もキーである。法廷で初めて会ったにも拘らず、翌日には一緒にランチをし、ラマは”妊娠しているでしょ”と誰にも言っていなかった事をズバリと言われて、うろたえる。
更に、裁判中、常に不機嫌な表情だったロランスが、ラマと目が合った時だけ笑いかけるのである。
<今作は、容易な作品ではないが”仏蘭西の中に有る意図せぬ黒人差別”の数々を暗喩させるとともに、母と娘の複雑な関係性も描き出している。
ラスト、ラマがソファで寝ているロランスの母親の寝顔を見ながら、優し気に手を握っているシーンが印象的でも有った作品である。>