劇場公開日 2022年12月9日

「シニカル」ホワイト・ノイズ Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0シニカル

2023年4月24日
iPhoneアプリから投稿

主人公は、ナチスの指導者ヒトラーと、ファシズムに熱狂する群衆心理を専門としている。「人は不安なとき、神秘的な人物に惹かれがちだ。」
ヒトラーが憑依したような彼の演説を学生たちは賞賛する。

群集心理の愚かしさをを理解しながら、いざ危険な事故によってパニックになると、家族とともに群衆のなかに混じり、周りの人々と同じ行動をとってしまうのが現実。

危険な現場から少しでも遠ざかろうとする群衆は、人間が「死」の不安から少しでも逃れようとする本能の象徴だ。人間は巨大な黒雲のような「不安」に取り巻かれている。

結局のところ、人間は絶えず流れ続ける不安のノイズ(静かな雑音)を意識しないで済むように、刺激的な娯楽、消費、宗教、指導者を必要とする。
妻が、極秘研究のボランティア募集という広告に騙されるところは、最近の陰謀論に希望を見いだす中年や高齢者に通じていた。

薬物に頼ることで、この不安を払拭できるかもしれない。しかし、薬物の刺激は心身に深刻なダメージを与える。本作では子どもたち(若い人たち)のほうが、煙草や食品添加物の危険性を親たちに指摘していた。

冒頭のカークラッシュシーン、パニック時の報道、ミスターグレイ。作りものやニセモノに溢れる現代において、スーパーマーケットの商品棚でお気に入りを見つけることだけが救いなのか。

ほとんどが在庫(ゴミ)となる大量生産品の一部に、自分のお金を払って交換するシステム。
天国を信じない修道女が言う。「信じるふりをしなきゃ、世界が崩壊する。それこそ地獄だ。」
こんなシステムでもヒトラーの再登場よりはマシという皮肉か。

しかし、国家的な排外主義や覇権主義が再び台頭し、むしろ過去のファシズムそのものへと逆行している現代。笑ってもいられない。

Raspberry