「深いテーマ? 暗示? それとも意味不明…? 見る人を選ぶ作品かも…。」ホワイト・ノイズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
深いテーマ? 暗示? それとも意味不明…? 見る人を選ぶ作品かも…。
何か久々に意味が分からん映画を見た気がする。
同名小説の映画化で、作者のドン・デリーロは物事を変わった視点から描き、その筋では高い評価を得ているらしい。
監督はノア・バームバック。この人も主に家族を題材に、辛辣かつシニカルかつブラック・ユーモアで描いてきた人。
そんな両者の特色が合わさって、分かる人には分かる通好みの作品なのだろうけど…。
あらすじなんかによると、とある町に毒物性化学物質が流出し、避難を余儀なくされた家族…という内容。
この毒物をコロナや3・11の原発事故に置き換えれば、今や私たちが経験してきた事を鋭く比喩したものであろう。
しかし本作は、そんな社会派作品ではない。ある不条理に見舞われた家族を通して、人が抱える複雑な感情を突っ付く。
コロナや3・11もそうだが、前代未聞な異常事態を経験したら、もうかつてのような平穏な日常ではいられない。何か一変してしまったものを感じる。
劇中でも毒物流出で、まるで世界の終わりのような。雷鳴の中に浮かぶ毒雲はディザスター映画のように圧巻。こんな事があり得るのか…?
毒物を含んだ雨に打たれた父。後からその危険性を知らされる。
今は異常無くとも、何年後かには…。
えっ、死ぬの…?
平穏に暮らしていたのに、思わぬ事態で突然宣告された死。
もう全てが変わるざるを得ない。
一見は何事も変わりないで通す。
が、その実は…。
これまでの営み、人生、価値観に違和感。
何かの錠剤を服用している妻。それ絡みで、男の陰…。
疑心暗鬼からトラブルへ。
死への恐怖、不安…。デマ。
見舞われ、翻弄振り回される家族の姿。
それらを風刺的に、叙情的に描く。
それでいてラスト、スーパーマーケットで買い物する人々の姿を長回しで。
不条理な事に見舞われながらも、平常を装う人々の姿が印象的。
人々は何かを暗示されても、見て見ぬフリを貫くのか…? それとも、自分には関係ないと気にも留めないのか…?
確かに通して見れば、今の世や私たちを揶揄した作品ではある。
が、どうにも分かりづらい。
抽象的過ぎというか…。
この揶揄や暗示めいたものが人によっては刺激的に響くのだろうけど、私にはさっぱり…。
アダム・ドライヴァー、グレタ・ガーウィグ、ドン・チードルら実力派のアンサンブルは見ものだが、意味不明に足を引っ張られてその醍醐味すら味わえなかった。
冒頭、ハリウッド映画に於けるバイオレンスやカークラッシュで作品のプロットを説明するシーンで始まる。
これも作品について何らかの暗示を示しているのだろうが、皮肉にも私は、そんな分かり易い欲求の方がいい…と作品を見終わった後思ってしまった。