劇場公開日 2022年12月9日

「この壮大な濁流を泳ぎ切ったことを評価したい」ホワイト・ノイズ 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5この壮大な濁流を泳ぎ切ったことを評価したい

2022年12月31日
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ドン・デリロの小説を映画化する。そう聞くだけで「出口なし」の企画だと分かる。これまで着実に良作を重ねてきたバームバックはこの難解な濁流をどう泳ぎ渡ろうというのか。冒頭では彼らしい家族の食卓の描写が重ねられ、小説が書かれた1985年そのままの時代の空気を刻印する。かと思えば、近隣で予期せぬ大事故が起こり、放出された化学物質をめぐって多くの住民たちが避難する事態に見舞われる。情報、知識が枯渇する際、人はどう考え、受け止め、生きるのか。そしてこの世で最も得体がしれず難解で、しかしあらゆる人々に確実に訪れる「死」の恐怖と我々はどう向き合うべきか。コロナでロックダウンを迫られた現代に本作が生まれたのは偶然ではないだろう。大混乱の描写といい、答えなき問題との格闘といい、従来のバームバックとは一線を画した怪作。が、難解さだけで終わらず、あのコミカルで楽しいエンドクレジットを添えるところが何とも彼らしい。

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牛津厚信