「「鍵泥棒のメソッド」のスピンアウト作品としてもいい」宮松と山下 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
「鍵泥棒のメソッド」のスピンアウト作品としてもいい
宮松はエキストラといっても全くの素人ではない。クレジットに役名は載らないが立派な役者。
彼の現実の描写シーンと思わせて、芝居の一場面のパターンが最初からいくつか続くので、時代劇でないと劇なのか現実か混乱させられるが、それも楽しい。
自宅アパートに帰宅すると女(野波麻帆)が待っている。「お腹すいた?何か作ろうか?」と宮松がいう。女は「疲れたからもう寝るわ」と返す。プロデューサー(?)役の大鶴義丹がブルガリのキーホルダーを女にプレゼントするシーンがあり、彼女は女優。自転車で仲良く出かけ、中華料理屋に寄っている最中、店の外から店内を窺うプロデューサー。自転車のキーにはブルガリの刻印のあるキーリングがぶら下がっている。それを確認したプロデューサーは諦め顔でしぶしぶ帰ってゆく。記憶喪失になった宮松には現実だったのかセリフのある芝居のワンシーンだったのか区別がつかないのには悲哀を感じた。役者としてはしりの頃にプロデューサーに睨まれて、干されたが、端役を続けているのかもしれない。
記憶喪失の原因はタクシー会社内での暴行だとわかるが、時系列が曖昧で、エキストラを始めたのはタクシー会社から姿を消して、ロープウェイの仕事についてからだと思い込んでしまったが、そうではないのかもしれない。 宮松というのは芸名のようだが、ロープウェイの同僚が宮松さんと呼んでいることから、記憶喪失後にゲットした本名とも考えられる。実家に夫と住む腹違いの妹(中越典子)は時計は父親の形見だと言うが、カマをかけているのかも。思い出させたくない秘密がありそうだ。失踪届けを出して、7年以上が経過して、すでに死んだことになっているのかもしれない。実家の名義も妹に変更済み?両親は交通事故で同時に亡くなったのだろう。後半の最期になって加害者は義弟(津田寛治)であることが明かされる。山下だよねと言って撮影所を訪ねてくる(尾身としのり)もタクシー時代の同僚だ。尾身のシリアスな表情と演技が大変良かった。さすがにずっと同居はできまいとアパートを斡旋してくれる。タクシー運転手から何かの会社を起業したような余裕のある風情だった。縁側でショートホープを吸う吸い殻には津田の吸ったタバコの白いフィルターの吸い殻も混じっている。
腹違いの妹と仲が良すぎるのを夫が嫉妬して起きた事件のようだが、隠された事実がまだまだたくさんありそうで、大人のミステリーとしてもとても味わい深い一作だった。
キーホルダー、記憶喪失、役者から鍵泥棒のメソッドのスピンアウト作品としても楽しめた。
スピンアウト作品でもよいから、味わいのある次回作を期待している。