「タイトルなし(ネタバレ)」とべない風船 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし(ネタバレ)
東京で教師をしていた30歳前の凛子(三浦透子)。
父親が定年後に移住した瀬戸内海の島にやって来る。
教師生活でうつ病になり、最近は派遣で事務をやっていたが、派遣期間も切れてしまったのだ。
何もない島での暮らしは、彼女を蘇らせるのに最適と思われたが、ストレスフリーというのもかえってストレスを溜めるのかもしれない。
そんな中、着いて早々、凛子の父のもとを訪れる無口な男性・憲二(東出昌大)と出会う。
島で漁師をしている憲二だが、妻子を数年前の豪雨災害で喪うという過去があった・・・
といったところから始まる物語で、その後、大きな事件は起きない。
島で暮らす女児が行方不明になったり、凛子の父親の持病が悪化して倒れて救急搬送したりというエピソードはあるが、それはアクセントでしかない。
映画は、心にトラウマというか大きな傷というか、そういうものを抱えた凛子と憲二が少し寄り添い、互いの傷を分かり合う、ただそれだけの物語として帰結する。
「ただそれだけ」と書いたが、ただそれだけで映画を作るのは難しい。
難しいのだけれど、この映画ではそれが成立している。
理由は、三浦透子と東出昌大、ふたりの無表情さ、ある種のかたくなさ、ハードボイルドの面持ちにある。
こわばった表情の中に、観るものを同化させるというか、そういうものがふたりにあるように感じます。
このハードボイルドの無表情さが、終盤の東出演じる憲二の嗚咽のシーンを際立たせており、彼のどうしようもない感情のほとばしりをみることによって、凛子はふたたび教職に戻る決意を得るのだが、ほんとうにこのシーンは素晴らしい。
東出の嗚咽もさることながら、それをみている三浦の(なにもしない)演技がいいのだ。
と、物語としてはそれほどでないが、三浦と東出の等身大の人物像が胸を打ちました。
撮影機材がお粗末な感じで、若干、映像的に緩いのが難なのだが、そこいらあたりは目をつむることとしましょう。
評価は★★★★(4つ)としておきます。