劇場公開日 2023年1月6日

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「映像の美しさに埋もれないドラマが印象的な一作」とべない風船 yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5映像の美しさに埋もれないドラマが印象的な一作

2022年12月6日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

浮かんでいるのかつり下がっているのか、不思議な風船が印象的なポスターですが、物語の筋そのものはそれほど不可思議なものではなく、主人公達の心の行程を一緒に辿っていくドラマとなっています。

2018年の西日本豪雨災害が物語に大きな影を落としているのですが、その描写は非常に生々しく、この災害を取り上げると知らずに鑑賞した方は少なからぬ驚きを感じると思います。『すずめの戸締まり』よりも描写としては直接的かも。豪雨災害で被災された方など、災害映像を見ることに躊躇がある場合には少し心積もりが必要かも知れません。

東出昌大演じる憲二は、かつては近隣の人にも頼られるほど活動的な島の男性だったのですが、三浦透子演じる凛子が父親を訪ねて来た時には、心を閉ざし、ほとんど誰とも口を利かなくなってしまっています。その姿はどうしても『マンチェスター・バイ・ザ・シー』(2016)のケイシー・アフレック演じるリーの姿が重なってしまうんだけど、本作はさらにその先を描こうとしているところに非常に好感が持てました。

彼がなぜ黄色い風船を毎日物干し竿に括るのか、わりと早い段階で察しがついてしまうんだけど、しかしそれでも彼が風船にこだわる理由を明らかにする慟哭混じりの告白には非常に心を掴まれます。

瀬戸内の青い海と空、そして風船の黄色の対比が鮮やかで、映像的にも非常に印象的な作品です。それでいてやたら美しい多島美を長々と見せるのではなく、あくまで物語の背景としてさりげなく用いているところも良いですね。

作中ではほとんど名前しか登場しない凛子の母、さわ(原日出子)の存在感が際立っていて、むしろ彼女中心で物語が回転しているという語り口も見事でした!

実は物語は島に生きる人々、というよりもある時点から島に移り住んできた人々を中心に展開しているんだけど、「島外移住」にこだわった物語上の必然性があったのかな?このあたりは、もし機会があったら監督に伺ってみたいところです。

yui